妄想特撮シリーズ

□いつか、どこかでの物語
1ページ/1ページ

 それはきっと「いつか」、「どこか」で起こった出来事。
 「根源の歴史」の出来事かもしれないし、あるいは「最後の歴史」の出来事かもしれない。はたまた、長い長い歴史の、ほんの「合間」でしかないのかも知れない。
 それは、私達の知らない、「エンディング」の一つ……



 世界は、「その存在」を認めなかった。
 だから、全ての戦士に号令を下した。
 ……その存在を、滅ぼせと。
 輪廻の輪を、再び巡る事など無いよう、魂魄の欠片も残さず滅せよと。
 ……「世界の破壊者」を、抹消せよと……


 白いドレスのような服を纏った少女が、荒野の真ん中で佇んでいる。
 何も無い。
 誰も、いない。
 その事に安堵し、ほっと溜息を吐いた瞬間。
 「それ」は彼女を襲った。
「きゃぁっ!」
 思わず悲鳴を上げ、その場にしゃがみこむ。
 濛々と立ち上る砂煙が彼女の視界を覆い、思考をも混乱させる。
 ようやく引き始めた砂煙の向こうから現れたのは宙を舞う列車。自身の真横には、その列車から放たれたミサイルが着弾したらしきクレーターが出来ていた。
 そう気付くと同時に、彼女の目の前に無数の戦士達が雲霞の如く現れる。
 この世界の守護者。バイクに跨り、仮面を纏う者。
 人は、彼らを「仮面ライダー」と呼んでいた。
「どうして……」
 どうして、こんな事になってしまったのか。
 嘆きたくなるが、今はそんな場合ではない。戦場と化してしまったこの地から、一刻も早く逃げなければ。
 そう思うが、足がすくむ。
 彼女の周囲を絶え間なく爆発が襲い、彼女が逃げる場所や暇を与えない。


 仮面ライダーの狙いは、「世界の破壊者」。
 存在自体が、この世界の崩壊を促す「異端(イレギュラー)」。
 その存在のせいで滅びた世界は数知れない。呪われた存在として、忌み嫌われ、その度に異なる世界に逃げ込み、そして意図せずに滅ぼしてしまった。
 「世界の破壊者」は、本人の自覚の無いままに、その世界に「歪み」を呼ぶ。
 最初は小さな歪みでも、やがて歪みは歪みを招き、気がつけば取り返しのつかない程大きな歪みになってしまっていた。そして、その歪みに耐え切れずに、その世界は滅びていく。
 だからだろう。この世界に逃げ込んだ時、既に守護者が動いていたのは。
 「世界の破壊者」を見つけるや否や、その存在の抹消にかかった。
 慈悲も躊躇も容赦も無く。
 ただ、己が世界を守る為だけに。
「一体……何をしたって言うんですか……!」
 少女は叫ぶ。力の限り、戦士達にその声が届く事を祈って。
 だが、その声は無情にも砲撃の音によってかき消されてしまう。
 天を駆ける列車のミサイル、戦士達の跨るバイクのエンジン音、そして彼ら自身の怒号。
 彼女には、もはや彼らを「戦士」として見る事は出来なかった。「たった一人」を抹殺するために襲いかかるその様は、暴徒そのものだ。
 それのどこか守護者である物か。
 嘆き、悲しみ、それでも動く事は許されず。
 彼女はひたすら、祈るしかなかった。
――やめて下さい。もう終わって下さい――
 と。
 そして……そんな彼女の祈りに応える様に、一つの電子音が響いた。
 直後には、彼女の前に立っていた戦士の何人かが、吹き飛ばされてその場に倒れこむ。
 その様子に、一瞬だけ空気がざわつく。
 誰が来たのか、理解したから。
「やれやれ。随分と好き勝手してくれてるみたいだな」
 彼女の前に降り立ったのは、マゼンタ色の戦士。緑の目は怒りを湛えたように吊り上り、その身に纏うオーラはどこかどす黒い。
「ディケイド……」
 少女が呟く。
 その声を聞き止めたのか、ディケイドは軽く彼女の方に視線を向けた。
 黒いオーラに似合わぬ、どこか優しげな仕草で。
「すぐに、終わらせる。そこで待ってろ、夏海」
「……はい」
 ディケイドの登場に安堵したのか、少女……夏海はほっと胸を撫で下ろし、頷く。
 そんな彼女とは対照的に、ライダー達はいよいよ殺気立った。
「ディケイド……この、悪魔め!!」
「やはり、貴様から倒すべきか!」
 ライダー達の何人かが叫び、攻撃を仕掛ける。だが……ディケイドはそれを軽くあしらうと、その身に余る力を一気に解放した。
 集っていたライダー達は吹き飛ばされ、武器達は暴発、それに巻き込まれる者もいれば、ディケイドの力その物に耐え切れずに倒れる者もいた。


 ……その先は、地獄絵図。
 態勢を崩したライダー達に対し、ディケイドは容赦なく自身の力を発揮、反撃の暇を与えぬまま次々とこの世界の「守護者」を殲滅していった。
 時に撃ち貫き、時に切り裂き、そして時に蹴り砕き。
 そして……いつの間にか。
 本当にいつの間にか、ほぼ全てのライダーが息絶えていた。
 累々と横たわる戦士達の骸。破壊され鉄屑と化したバイク。小さく燻る埋火(うみび)は、終結間際の戦を見届ける証人か。
 たった一人……クウガと呼ばれる赤き戦士のみが、ディケイドの前に立っていた。
「やはり、お前が最後まで残ったか…………ユウスケ」
「士……何故だ?」
 まるで親友同士であるかのように、互いの本名を呼び合うディケイドとクウガ。
 淡々とした口調のディケイド……士に対して、クウガ……ユウスケは今にも泣き出しそうな声で問いかける。
「何故、お前が……!?」
「……お前には、一生かかっても分らない」
「ああ。そうかも知れないな……」
「お前に残っている選択肢は、俺を殺すか、俺に殺されるか。そのどちらかだけだ」
「お前が退くって選択肢は……無いんだよな」
 クワガタムシを連想させる仮面の下で、ユウスケは泣き笑いの顔を作り……そして、ぐっと拳を固める。
 己が身の内に宿る、漆黒の力を引き出すために。
「……士。俺は……」
「本気で来い、ユウスケ」
 小ばかにするような声で、ディケイドは武器も構えずにクウガの出方を待つ。
 赤から、黒……闇に染まっていく親友を、心苦しく思いながら。
「俺は……『世界の破壊者』を、滅ぼす!!」
 轟、と吼えるような宣言。それと同時にクウガの体が闇色に染まった。
 「世界の破壊者」……「光夏海」を消し去るために。



 どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 自分が、何をしたと言うのだろう。
 ただ、平穏な生活を求めただけなのに。
 嘆きが、夏海の身の内に宿る。
 何度も何度も、世界を渡った。
 「世界の破壊者」と呼ばれ、疎まれ、逃げるように別の世界へ向かい、そしてそこでも迫害され……
 自分自身は、何もしていない。ただ静かに生活をしていただけ。
 それなのに、どうやら「自分」と言う存在は、無条件に歪みを呼んでしまうらしい。
 最初は気にならないほど小さな歪み。それが徐々に大きくなって……気がつけば、自分を中心に世界は大きく歪んでいた。
 そうなる度に、夏海は迷惑をかけまいと世界を後にする。
 だが、気付いた時には取り返しがつかない程にその世界は歪み、彼女が去った後に「破滅」を迎えた。
 今回のこの世界は、一体幾つ目の世界なのだろう。
 数えるのも馬鹿らしいほどの「引越し」を繰り返し、夏海の心は疲弊していた。
 ……もう、終わろう。
 そう思った時に到着した世界が、「ここ」だった。
 最初に出会ったのは、「ディケイド」と言う名の戦士であった、門矢士。
 そして、「クウガ」である小野寺ユウスケ。
 二人はとても優しかった。自分が歪みを招く、「世界の破壊者」だと知っていたにも関わらず。
 必死になって、「歪みを生まなくなる方法」を探してくれた。
 ……それこそ、親身になって。
 だが……そんな方法は存在しないのだと分かった時。
 二人の道は分かれた。
 ユウスケは、「皆の笑顔を守るために夏海を倒す」と決意をし。
 そして士は、「世界を犠牲にしてでも、夏海を守る」と決意した。
 当然、士は「裏切り者」として夏海と共に追われる身となった。
 ……どうして、こんな事になってしまったのだろう。
 強大な力をぶつけ合う士とユウスケの姿を見ながら。
 夏海は答えの出ない問いを、反芻した……



「無事か、夏海?」
「はい。大丈夫です」
「……そうか」
 どんな闘いだったのか、正直な話、夏海の記憶には無い。
 覚えているのは最初の一撃……ディケイドとクウガが、互いの拳をぶつけ合った瞬間。そしてその直後に生まれた衝撃を伴う真白の光だけ。
 だが、こうして自分が無事で……そして、目の前に変身を解いた士がいると言う事は、クウガが敗北したのだろう。
 士は、自分のために……親友を、その手にかけたと言う事か。
 そう思うと、酷く悲しく……そして、居た堪れない気持ちになった。
「士君こそ……大丈夫ですか?」
「お前が無事なら、それで良い」
 そう答えた士の声は、やはり酷く悲しそうで。
 やはり自分は、「存在すべきではない存在」なのだと思い知らされる。
 彼女のそんな感情に気付いたのか、士はその顔に苦笑を浮かべ……ポン、と優しく髪を撫でる。
 彼女の存在その物を、愛しむように。
「夏海」
「はい」
「例え世界その物を敵に回しても、俺がお前を守る。悪魔と罵られようが、仲間を失おうが……俺は永遠に、お前の味方だ。約束する」
「私も……約束します。士君をずっと信じるって」
 まるで、神聖な誓いであるかのように落とされたその言葉達は。
 宙に舞い、空の彼方へと吸い込まれていった。
 まるで世界が、その言葉を拒絶しているかのように……



 その先、その二人がどうなったのか。おそらく、それを知る者はもういない。
 世界が破壊されたのか、それとも二人が異なる世界で倒されたのか。
 少なくとも、祝福されぬ未来が待っていた事だけは確かで。
 それでも彼らの瞳に映る物は、未来への希望なのか。
 それとも底なしの絶望なのか。
 それを知る術はどこにも無く、そもそもこれは「いつか」、「どこか」の物語。
――「今」ではない「いつか」の物語――




感想は感想板


妄想特撮シリーズトップへ戻る

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ