キリリク

□ふたりのこども
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 三ヶ月前。私、吾妻霧雨には、待望の「兄妹」が誕生し(生まれ)た。
 長年に渡りパパとママに「弟か妹が欲しい。出来れば両方」と言い続け、気を利かせて二人きりにさせるなど、地道な努力を続けた結果……なんと、生まれたのは「男女の双子」だった。
 まさか弟と妹の両方が同時に出来るとは思っていなかったけど…………うん。可愛い。
 血のつながりなんて、当然ないんだけど、それでも何と言うか……彼らの姿を始めてみた時、「ああ、お姉さんになったんだ」と実感してしまった。
 本来なら、ママ側の籍に入るのが筋なんだけど、パパもママも変な気を回したらしく、「血のつながりのない弟妹」は、「戸籍上は実の弟妹」として登録される事になった。
 難しい事は分らないが、戸籍上、私の実の両親……お父さんとお母さんは「生存している」事になっているらしい。とは言え、「失踪」という扱いになっているらしいが。
 死体は永遠に見つからないから、死亡を証明できないし、しょうがない措置なんだけど。
 まあ、そう言う訳で。生まれてきた子供達は、私と同じ「吾妻」という苗字を持って生活する事になった。
 だからこそ、余計に「姉としての義務感」みたいなものが生まれたのかも知れないけど。
(アオイ)(アカネ)、ただいまー、霧雨だよー」
 あの子達が生まれてすぐに越してきた新居に帰ってくるなり、私は鞄を放り出し、手を洗ってから揺籠の中で眠る弟妹の元へ直行するのが日課になってしまった。
 弟が碧、妹が茜。
 この三ヶ月で、ふっくらしてきて可愛さが増したように思う。頬も林檎みたいな色だし、目も見え始めているのか、時折ママやパパを探すような仕草をとっているのを見かける。
 顔をじっと見てあげると、楽しそうにきゃっきゃと笑うようにもなった。
 私の野望としては、最初に言わせる言葉は「むー」にしてやろうと目下画策中なので、事ある毎に自分の名前を彼らに聞かせる毎日だ。
 ……お陰で、友人からは「姉バカ」のレッテルを綺麗に貼られてしまったが、可愛いものは可愛い。仕方ない。
「お帰りなさい、霧雨さん」
「ただいま、ママ」
「先程、害虫(テトラ)がケーキを貢いで来ましたので、着替えが終わったらお茶にしましょうか」
「ん。……パパは?」
「徹夜明けで抜け殻状態なので、そっとしておいて差し上げて下さい」
「ん」
 ニコニコと笑いながら迎えてくれたママに軽い敬礼を返し、私は着替えるべく自室に戻る。
 ……一年前の私なら、パパとママの心遣いを鬱陶しがっていただろうが、今は私自身が弟妹に対して同じように鬱陶しい行動をとっていると自覚があるので、何も言わない。
 パパとママがラブラブだったからこそ、碧と茜が生まれたのだ。
 とは言え、あの子達はファンガイアとオルフェノクの「混血」。一見すると普通の赤ん坊だけど、当然「普通」なはずはない。
 それを痛感するのが、あの子達が泣き出した時。勿論、赤ん坊は泣くのが仕事だから、仕方ないんだけど。
 そんな風に思った、まさにその瞬間。
 二人の泣き声が、私の耳に届いた。同時に、ガシャン、ドカンと何かが壊れるような音も。
 ………………始まった!
 慌てて部屋着に着替えて、私は難儀しているであろうママの元に向かう。
 原稿が上がったばかりで抜け殻と化しているパパは、おそらく使い物にならない。かと言って、ママ一人で疳の虫が騒いでいるあの二人を相手にするには無理がある。
「ママ、大丈夫!? ……じゃないよね、毎度の事ながら」
「霧雨さん。申し訳ありません。手伝って頂けると大変ありがたいです」
 ママの元に辿り着いた時、既に部屋はこれでもかってくらいに荒れていた。苦笑気味に返したママの手の中には、二対の「吸命牙」が握られており、更に襲い来る二本の「使徒再生の触手」を回避している。
 ……実は、碧と茜は泣き出すと吸命牙と使徒再生の触手を出して無差別に周囲を攻撃するという面倒な「癖」がある。
 あの小さな体の中に、ファンガイアの力とオルフェノクの力があるのだ。持て余しているんだろう。私がクイーンの力を持て余して、適当な場所で発散させているからよくわかる。
 あの子達は本能的に、泣きながら吸命牙と使徒再生の触手を使って暴れる事で、自分達の中の力を発散させているんだと思う。
 最初のうちは私達もてんやわんやだったんだけど、流石に三ヶ月もすれば余裕が出てくるというか、慣れるというか。
「……周囲が命懸けなストレス発散って」
 苦笑しつつも、私はひゅんひゅんと空を切っている使徒再生の触手の動きを見極め、それを「裁きの雷」で拘束する。
 これは「守護型」の応用。対象を「自分」じゃなくて「第三者」に設定すると、なんと拘束できるらしい事も発見した。実験に付き合ってくれた、あの変な喋り方する「鬼」には感謝しないとNe! ……あ、うつった。
 そもそも使徒再生の触手なんて、オルフェノクであるパパはともかく、私やママが直接触ったら灰になる可能性もある。
 ……まあ、ママの場合は十ヶ月近くあの二人をお腹の中に抱えていた訳だから、実は何気に耐性があるんじゃないの? とか思わなくもないんだけど。
 吸命牙と使徒再生の触手を押さえ込まれたせいか、二人の泣き声はますます大きくなる。
 まあ、あの子達にしてみれば、ストレス発散を邪魔されたんだから当然だろう。ママもその事は理解しているらしく、困ったような顔をしてから吸命牙を私に拘束させ、空いた両腕で二人の小さな体を抱えあげ、あやす。
 暴れられない分、泣いてストレスを発散するしかない二人は、これでもかってくらいに泣くんだけど……やっぱり母親の腕の中は心地良いのか、しばらくすると徐々に落ち着いて眠ってしまった。
 そうなって初めて、この部屋の惨状を認識する。
 カーテンは破れ、ベビーベッドの柵は灰と化し、棚の上に置かれていたらしい人形が床に転がっている。
 他に被害はというと……あ、ママのエプロンが可哀想な事に。
「人形の類は元の位置に戻すとして、ベビーベッドは早急に対処せねばなりませんね。あと、カーテンも買わなくては」
 ふう、と疲れたような溜息を吐き出しつつ、ママは苦笑いと一緒に言葉を吐く。
 「子育ては重労働だ」という話を聞いた事はあるけれど、ウチの場合は普通の家よりも更に過酷な労働なんじゃなかろうか。
 まあ、パパは基本在宅勤務だから、ママ一人で苦労している訳じゃないんだろうけど。
「大丈夫、ママ?」
「ええ、大丈夫です。迂闊にもエプロンを持っていかれましたが」
 うーむ、チェックメイトフォーのルークであるママのエプロンを、二人がかりとは言えお釈迦にするとは。碧、茜……恐ろしい子っ!
「それにしても、出産祝いに家を貰っておいて良かったね」
「そうですね。これが、以前住んでいたマンションだった場合、とうに追い出されていたでしょう」
「その前に幼児虐待の嫌疑かけられて、児童相談所(ジソウ)から人が来た可能性大だな」
「あ、パパ。生還したんだ。おはよー、ただいまー」
 冬眠明けの熊みたいにのっそりと出てきたパパに向って声をかけると、パパは虚ろな笑みを浮かべて軽く私に向って手を上げた。
 今の仕草は、仕事が終わってヘロヘロになったパパの挨拶だ。「おはよう」も「お休み」も「お帰り」も「いってらっしゃい」も、全部今の仕草で統一される。
 そんなパパの横では、アッシュ兄ちゃんが苦笑を浮かべて碧と茜に視線を向けている。
――相変わらずの破壊力だな、そこのガキンチョ共――
「これでこの家壊れないんだから、頑丈だよねー」
 呆れたように言ったアッシュ兄ちゃんに、思わず声を出して言葉を返す。
 とは言え、ママはアッシュ兄ちゃんの事を知らないはずだし、パパも「私がアッシュ兄ちゃんの存在を知っている」と言う事を知らない。だから、私の言葉は独り言のように聞こえただろう。
「D&P社とスマートブレイン、ついでにあのクークが総力を挙げて作った家だからな」
「……最後の一人の名を聞くだけで、ある意味呪われていそうな気がするのは気のせいですか?」
 はあ、と溜息を吐きながら、パパとママはゆっくりと部屋の中を見回す。
 そう。この新居は、パパとママの「出産祝い」と言う事で、D&P社とスマートブレイン社の二社合同でのプレゼントなのだ。ちなみに、何故かあのクーちゃんもこの家の設計に携わっていたらしい。
 彼らが造った家だから、なのかは知らないが……この家、相当頑丈に出来ている。
 到るところに強化の刻印が施されている他、防音機能も充実。更には灰化しにくい素材でも使っているらしく、家その物には傷一つ付かない。被害にあうのはいつも家具か服くらいだ。
 随分と豪勢な誕生祝だ、なんて思ったりもしたけど、今となっては本当にありがとうキング、ありがとうスマートブレインの社長さん。そしてこの家を作ってくれた職人の皆さん。
「まあ、それはともかく。碧さんも茜さんも眠ったので、先程言った通り、お茶にしましょうか」
「ん!」
「弓さんはどうします? 寝直します?」
「いや、一緒にお茶に呼ばれる事にする」
「わかりました。それでは、お茶を淹れて来ますね」
 がしがしと頭を掻きながら言ったパパに、ママはにっこりと笑顔を返してそう言うと、ボロボロになったエプロンを脱いで台所へと消えていった。
 そして、ママの脱ぎ捨てたエプロンを見て……パパが苦笑気味に言う。
「……俺らの子供ながら、末恐ろしいな。現時点で硝子のエプロンを灰に変えるとは」
「まあ、パパもママも最強クラスのオルフェノクとファンガイアだからね。って言うかパパ、今の、親バカっぽく聞こえる」
「褒めてくれるのはありがたいが、俺は別に『最強クラス』じゃないからな?」
 ラッキークローバーの一人が何を言うか、とツッコミたいけど、パパは謙遜ではなく本気でそう思ってる節がある。
 でも、私に言わせればパパは掛け値なしに最強クラスのオルフェノクだ。速度、攻撃の正確さ、それに純粋な力量においても、パパは相当な使い手だと思う。
 というか、そうでなきゃガチ戦闘タイプのママが自分の背中を預けたりする訳ないと思うんだけど。
 …………はっ! これって親バカならぬ「子バカ」? 贔屓目に見すぎてる!?
 いやいや、それを差し引いたって、パパとママは強いよ。
「下手をすると、レオや聖守、歌宿なんかよりももっと強力で凶悪な存在になるかも知れない。何てったって……言っちゃ悪いが、こいつらは『新種』だ」
 揺籠の中ですぴょすぴょと眠る二人の頭を撫でながら、パパはどこか苦しそうに言葉を紡ぐ。
 確かに、碧はファンガイアなのに、鳥のような外見を持っているし、茜はオルフェノクだけど死んだ事がない。使徒再生の触手と吸命牙の両方を持ち、暴れている最中、両方の性質を兼ね備えているように見える事もある。多分、実際両方の性質を持ってるんだろう。
 ……でも。
「大丈夫だよ。そうならないように、私が守るから。だって、私はクイーンだもん。弟と妹を守れなくて、誰を守れるって言うの? そもそも、パパとママの子供なんだから。そんな風になる訳ないよ。二人に育てられた私が言うんだから、間違いない!」
 腰に手をあて、私は一息にそう言い切る。
 力の面では、確かにパパの懸念通りになるかもしれない。でも、精神面ではそうはならないと思う。
 赤の他人である私が、まあ、八つ当たり的に無人の廃屋でクイーンの力を垂れ流しはするけど、他人様には迷惑をかけないようにしているのだ。実の子供であるこの二人が、他人に迷惑をかける事を良しとする者になるはずがない。
 仮にパパが心配するような方向に進みかけても、その時は私がお姉ちゃんとして、ビシッと言う。
 そんな決意表明をした私に、パパは一瞬だけきょとん、とした表情を浮かべて……でも、すぐにニヤッと笑うと、ぽんと私の頭を軽く撫でてこう告げた。
「そりゃ、頼もしいな。頑張ってくれよ。……『お姉ちゃん』」
 そう言って、パパはママの待つリビングへと姿を消した。その後姿を見て、思う。
 ……パパの心配が杞憂に終わるように。そして何より、可愛いこの子達が、生きる者の敵になどならないように。
「私は、絶対に守るからね」
 眠る二人に向かってそう言うと、私もパパの後を追って、ママのいるリビングへ向うのだった。



――小噺・数年後――

「くらえ茜ェ! 飛鶴粉砕脚(ひかくふんさいきゃく)!!」
「温いわね碧! Die Faust vom Schluck(ディー フォウスト フォン シュルック)!」
「……あーもう面倒な。ブレイズ」
『痛っ!』
「何すんだよむー姉! 痛いじゃんか!」
「そうよ姉さん、邪魔しないで! 今日という今日こそ、碧を屈服させて下僕にするんだから!」
「はんっ! 返り討ちにして俺専属のメイドにしてやらぁ!」
「出来るもんならやってみればぁ?」
「ああ、やってやるとも、今日という今日こそ我慢できねえ!」
「それはこっちの台詞ですぅ」
「ブレイズ」
『痛ったぁぁぁっ!』
「…………今日の喧嘩の原因は何? 怪人態で戦う程の内容なの?」
「茜が! 目玉焼きに醤油なんかかけるから!!」
「碧が! 目玉焼きにソースなんかかけるから!!」
「うわ下らない」
「一刀両断!?」
「ちなみに、姉さんは何かけるの?」
「塩胡椒」
『うわぁ、サイテー』
「…………お姉ちゃんに喧嘩売るとは、いい度胸だね二人共。ブレイズっ!」
 ばちばちばちっ
「平和ですねぇ」
「……平和か? これ?」


そして多分、弓と硝子は何もかけない派だと思う





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