薄桜鬼ss

□うつります。
2ページ/2ページ





 凍り付いた空気の中、嫌な予感を感じて土方が振り返ると………そこには、黒い猫耳を頭に生やした斎藤がいた。
当の本人は気付いていないらしく、心配そうに千鶴の顔を覗き込んでいる。


「あはは、いいねはじめくん。すごく似合ってるよ、それ」


 堪らず笑い出した沖田の声に、訝しげに目を向けた斎藤は次いで「まさか!」と慌てて自分の頭に手をやった。
ふわりとした猫耳の感触を感じた斎藤は、顔を真っ青にする。


「な、んだ…これは…どうなっている…!?」

「あははは!はじめくん!ちょー似合わねぇしー!!!!」

「いいじゃねぇか斎藤!その耳がありゃあお前の仏頂面もちったぁ愛嬌でるんじゃねぇの?」

「新八、平助も。笑ってる場合じゃねぇだろ……くくっ…」


 次々とからかいの声が飛んできて顔を赤くさせた斎藤は、ついに己の右腰の刀へと手を掛けた。
今にも抜刀しそうな剣呑な雰囲気を纏った斎藤に、土方が慌てて声を掛ける。


「落ち着け斎藤。一時間で元に戻るらしいから部屋に行って時間潰してろ」

「副長…………はい、分かりました……ーーーーっ!!?」


 言って立ち上がろうとした斎藤が、不意に動きを止めた。
横で斎藤の猫耳を食い入る様に見つめていた千鶴が、何を思ったのか突然斎藤の頭へ手を伸ばしたのだ。


「ーーーか、…可愛い………っ」


 パアッと顔を綻ばせて言った千鶴は、ついに両手を伸ばして斎藤の猫耳を撫で始めた。
ピクリ、と耳を震わせた斎藤は、力が抜けた様にその場に腰を落とす。
見るとその顔は、真っ赤に染まっているではないか。


「も、もう少し…その…撫でていてもいいですか…?」


 そう上目遣いに請われた斎藤は、視線を逸らしつつも小さな声で答えた。


「…ああ…、構わん……」


 再びパアッと顔を綻ばせ、そして愛しそうな表情で優しく斎藤の頭(猫耳)を撫でる千鶴。
真っ赤に染め上げた顔で、どこか嬉しげな表情をしながらそれを受け入れる斎藤。

 周囲の空気が殺気に包まれた瞬間だった。


 暫く無言で二人を見ていた沖田が、突然千鶴の肩に手を掛けた。
直後沖田の頭にも茶色い猫耳が生え、沖田によって振り向かされた千鶴の目はその猫耳に釘付けになる。


「僕の猫耳も、以外と似合ってるでしょ?」

「沖田さん…さ、触っていいですか…っ?」

「いいよ。きっとはじめくんのなんかよりも僕の猫耳の方が触り心地良いと思うよ」

「総司…っ」


 悔しげに沖田を睨む斎藤を余所に千鶴が沖田の猫耳へ手を触れると、ピク、と茶色い耳が震えた。
思わず片目を瞑った沖田は、困ったように視線を落とした。


「あ、れ……困ったな。…はじめくん、こんなに気持ちいいのを独り占めしようとしてたの?」


 千鶴に猫耳を撫でられうっとりと目を細めた沖田に、斎藤はぐっと声を詰まらせる。
沖田はそのまま快感に身を委ねるかのように、頭を千鶴の胸元に寄せた。

 そして再び周囲の空気が殺気に包まれた瞬間だった。



「土方君、後は任せましたよ」

「なっ…おい、山南さん!あんたの蒔いた種だろうが!!!」


 にっこりと微笑んで去っていった山南に、土方は舌打ちをして諦めたように後ろを振り返った。
何があったのか揉みくちゃになっている面々の頭には、一人残らず猫耳が生えていて……

 暫しその様子を無言で眺めていた土方は、「よし、」と小さく呟いて何事もなかったかの様にその場を立ち去ることにしたのだった。




終い
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ