薄桜鬼ss

□思いの伝え方
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「………あの…」


 斎藤に助け出された後、斎藤の部屋の前の縁側で二人腰を下ろしていた。


「……何だ」

「ありがとう、ございました……」


ーーーああ、この人も怒っている。


 感情を圧し殺した声で返した斎藤は、表情にこそ出さないがその内に怒りを含ませていた。
先程の沖田よりは幾分かましだが、しかしピリピリとした空気が辺りを漂う。

 耐えきれなくなって俯いた千鶴の手を、不意に斎藤がそっと取った。
壊れ物を扱うかのように優しく掴まれた手首に視線を落とすと、白い肌に赤い跡が残っている。
恐らくさっき沖田に強く掴まれたせいだろう。

 そんな千鶴の手首をそっと親指で撫でた斎藤は、気配を和らげて静かに口を開いた。


「……こんなに細い腕では男に敵わん」


「……はい」


 先程、沖田によって嫌という程知らしめられた現実だ。
再び千鶴は視線を落とした。


「俺達を守りたいというお前の気持ちは嬉しく思う。…だが気持ちだけではどうにもならんこともある」


「………はい」


 千鶴が俯きながら返事を返すと、不意に斎藤の指が千鶴の顎を持ち上げた。
自然と斎藤と向かい合う形になり、その表情が僅かに苦しげに歪んでいる事に気付いた。


「…あまり心配させるな」


「斎藤、さん…」


「副長も総司もあんな風にしかお前に伝えられないが、思っている事は他の奴等も皆同じだ」


 静かに言葉を紡いだ斎藤は、千鶴の腕を引いてふわりとその体を抱き締めた。


「お前を危険な目に合わせたくない。お前が不逞浪士共に指一本でも触れられたら正気でいられないだろう。もし危険が間近に迫っているなら俺達がお前も、この屯所も守り抜いてみせる」


「斎藤さん…」


「だから……頼む」


 ゆっくりと身を離した斎藤は、千鶴の頬に手を添えた。


「ーーーもう二度と一人で危険な真似はしないと約束してくれ」


「………はい」


 堪えきれなかった涙を頬に伝わせながら、千鶴は小さく微笑み頷いた。
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