*story

□涙ノ空
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なんだろう…この気持ち…。








「おはようございます、沖田さん」



廊下で千鶴ちゃんとすれ違った。
一瞬僕の肩が揺れたのに
彼女は気づいただろうか?



「おはよう、千鶴ちゃん」






他でもないこの子に昨日、
松本先生との会話を
聞かれてしまった。

"労咳"

僕の体を蝕む病の話だ。




ー斬らなくちゃいけないかな…
とっさに口をついた脅し文句。
彼女はどう思っただろう?


病については
あんまり自覚がない。
まだ軽い咳が出るくらいだ。
もっともそんな簡単な病じゃ
ないことくらい
分かってるつもりだけど

そもそも僕はまだ新選組…
近藤さんのために
働かなくちゃいけない

そのためならーーー






そのためなら?





そのためなら僕は彼女を
斬れるだろうか?

病への不安がない訳じゃない。
告げ口される不安も
僕をしばりつけていた。


僕ってこんな弱かったっけ…







「沖田さん?
今日もいいお天気ですよ!」


輝く青空を見上げていた
千鶴ちゃんが
そう言って僕を振り返る。



「……沖田さん?」



返事をしない沖田を見上げ
不安げに千鶴は
もう一度彼の名前を呼んだ。



あー、
僕 今ものすごく
情けない顔してんだろうな…


そんな風に思っていたら
ふいに千鶴ちゃんが
震えだしたかと思うと
ポロポロと大粒の涙を
流しはじめた。



「ちょっ、いきなりどうしたのさ
千鶴ちゃん!?」



いきなりの涙に驚く沖田の問いに
千鶴はとぎれとぎれに
言葉を紡ぎだした。



「ごめっなさ…
私にもっ…分から…けど
涙が…とまっ なくて…」



!!



なぜかそれを聞いた僕は
その涙が持つ意味が
分かった気がした。


いろんな想いが込み上げて
沖田はぎゅっと千鶴を
抱きしめていた。


●●
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