*story 2

茜紅葉
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「心地いい…」




慌ただしい頓所の一部屋。
病に臥せる沖田総司の部屋だけには静かな時が流れていた。

夏が終わりを告げ
色付きはじめた紅葉が悲しげに揺れて、蜩が鳴いた。



―――今日も生きてるんだ



決して良いとは言えない体を無理に起こして短い秋を感じていると、考えずにはいられない僕の生きる意味。




近藤さんの力になれない
新選組の剣になるない

何より…


「――土方さんの背を守れない」






弱い僕を彼は必要としてくれるだろうか

いっそ捨てられて
しまうくらいなら―――







反射的に懐に手を突っ込むと
取り出してしまった小瓶。
数日前 南雲薫を名乗る女性に渡されたそれが沖田を映し出していた。



「あなたは、戦えますか」



反芻する薫の言葉。








――――僕はッッ…










小瓶の中の赤い液体が
怪しく揺れた。












――――――――――――――
―――――――




「…総司いるか?」



ふいに廊下から聞こえた声に沖田はとっさに変若水を布団へと押し込んだ。



「土方さんじゃない。どうしたんですか?」



開いていたふすまから姿を現したのは土方で、その声を沖田が間違うはずがない。



一番見られたくない弱い自分を見られてしまったのではないかという心配が沖田の声を震わせる。



「土方さん忙しいんでしょ? 僕にかままってていいんですか?」



見られたくない。
役に立たない僕なんか知られたくない。

弱い僕を…見ないで





「総司」


早く出て行ってほしかった。
土方さんが必要とするのは強い僕。
今ここに貴方が望む僕はいないから、今にも崩れそうな誰にも見せちゃいけない弱い僕。





―――なのに
なのになんでそんな優しい声で僕を呼ぶの?


知られたくないのに
見られたくないのに




なのに…






………行かないで











「ほら、副長がさぼってたら 示しがつかないじゃない」



こんな事言いたいんじゃないっ
好きで好きで離れたくないのに

どうして…



でもこれは出してはいけないもの
僕のいらない部分。

分かってる…
分かってるのに






おかしいな…



















寂しいよ








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