*story 2

真紅
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――――汚い 汚いよ




聞こえる声。
誰? 君は…誰?












……夢?


ゆっくりと目を覚ました沖田は
自分がしっかり布団に入れられてる事に気づく。
月はもうだいぶ高い位置に
あったが、まだ微かに愛しい人の香りが残ってる気がして思わず頬が綻んだ。


温かい気持ちに包まれて
夜の寂しさすらも感じない。









「汚いよ」




――――ッッ!!?





自分の他に誰もいないはずの部屋にいきなり響く声に沖田は素早く振り返った。

気づけなかった気配。




「誰!?」



ゆっくりと雲が流れ。
幸か不幸か美しい満月が繚乱と空を飾る。

光さす室内。







「……お前…は」






見開かれた翡翠の瞳に映ったのは決して存在するはずのないもの。

そこにいたのは沖田に瓜二つの青年だった。
しかし月明かりに照らされたその髪は白く染まり、瞳は紅い狂喜を宿していた。


うっすら笑みを浮かべた青年はゆっくりと布団へと歩みを進める。
反射的に伸ばした沖田の手が刀を引き寄せていた。

それを見た真紅の瞳が怪しく細められていく。



「それで何しようっての?
もしかして僕を斬る?」





「あはははははははっ」



乾いた笑いが響く。



「あははっ ははは…
何の役にも立たない君が僕に刀を向けられるの?」



「…お前……」



「分からない? 僕は君…
いや、君と違って皆に必要とされる羅刹の沖田総司かな」



静かだけど確かな嘲笑のこもった声がひどく耳障りだった。



「羅刹の僕…だと?」



「そう、"土方さん"に相応しい僕」





!!!!??






土方の名を聞いて
明らかに走る動揺。



「違うっ!! 僕は僕だっ!
土方さんを守るの
はお前じゃないっ!」




"大丈夫だ"

先刻紡がれた優しい声が
聞こえた気がした。





「守る? その自分の血にまみれた汚い体で?
そんなんじゃ盾にすらなれやしないじゃない」



「…違っっ」



「ククッ…
もう捨てちゃいなよ…そんな体の僕なんて、いらない」


「そんな事っっ
僕はまだ戦え――――」



言い終わらないうちに 沖田の腕は羅刹を名乗る沖田に強く掴まれた。





――――ガタン





「あっ…」



力を込めて掴んでたはずの刀はあっけなく畳に投げ出されてしまう。

それを軽々と拾い上げゆっくりと引き抜く瞳に彼は"生"と強い憧れを感じずにはいられなかった。




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