比嘉

いらない。
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「咲、なんくるないさーみ?」
(咲、大丈夫?)

そう言いながら、俺は彼女の病室に入った。

「なんくるないさー!」
(大丈夫!)

彼女は笑った。
きっともう、笑いたくないはずなのに。

「ちゅーやさー、永四郎がまた裕次郎と凛にゴーヤー食わしてたんやっさー。」
(今日はなあ、永四朗がまた裕次郎と凛にゴーヤー食わしてたんだ。)

他愛もない会話。
でも、こんな会話でさえ、あと何回出来るかわからない。

「ふふっ、またぬーがらやらかしちゃんぬみ?あぬたい。」
(また何かやらかしたんだ?あの二人。)

彼女は笑う。
優しい笑顔で、精一杯笑っている。

彼女の笑顔を見るたび、苦しくなる。
泣きたいはずなのに、恐いはずなのに、
誰かに「助けて」って叫びたいはずなのに…

「…しむさ。」
(…いらない。)
「あい?」
(え?)

俺の呟いた声が彼女には聞こえなかったようだ。

「咲の、無理しはるわれーじらなんかしむさ。
 泣きたいなら泣けばゆたさん。
 辛いなら辛いってから言えばゆたさん。
 わんが、ちゃーすばんかいいてやる。」
(咲の、無理してる笑顔なんかいらない。
泣きたいなら泣けばいい。
辛いなら辛いって言えばいい。
俺が、ずっとそばにいてやる。)

こんな恥ずかしいセリフ、彼女にしか言えない。
彼女だから言うんだ。
大切な咲だから。

「ひろし…じゅんにやね、しにまぶぅやーぬ。
 死にたくねーらん。もっと寛とあがーよ…」
(ひろし…本当はね、すごく怖いの。
死にたくない。もっと寛といたいよ…)

彼女は泣いた。
病気になって初めて、俺の前で泣いた。
俺は、小さな体でずっと頑張っていた分、
彼女を優しく優しく抱きしめた。

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