比嘉

傍にいるから。
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「咲っ!!」

そう叫びながら、血だらけの彼女に駆け寄ったのは、ほんの数日前。
彼女の記憶と命は無事だった。
だが、彼女にとって、いや人間にとって大切なものを失くした。

「…咲。」

彼女の名前を呟く。
すると彼女は、冷たく笑う。

「ふっ…同情なんてしむさ。」
(ふっ…同情なんていらない。)

彼女は淡々と言葉を続けた。

「わんは一生、わーぬひさで歩けねーらん。
 こんな風んかいなるなら、死んだほうがマシやたん…」
(私は一生、自分の足で歩けない。
こんな風になるなら、死んだほうがマシだった…)

恨みや悲しみ、絶望。
いろんな感情が入り混じったような声。

「…咲。わんがちゃー、傍んかいいてやる。
 わんがやーぬひさんかいなる。わんがやーを、支えてやる。
 だからよー…笑ってくれねーらん?」
(…咲。俺がずっと、傍にいてやる。
俺がお前の足になる。俺がお前を、支えてやる。
だから、笑ってくれないか?)

俺の精一杯の言葉。
俺の精一杯の気持ち。

彼女は笑った。
あの優しい笑顔で。

「寛…にふぇーでーびる。」
(寛…ありがとう。)

俺も笑った。
自分の精一杯の優しい笑顔で。

「ぐぶりーさびたん。」
(どういたしまして。)

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