フォルダ1
□独占欲。
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パソコンで動画を見ていたルカが、イヤホンを外して話しかけてきた。
「がくぽ。好きだから相手を殺すというのは、何故ですか?」
ふむ。ヤンデレの歌でも聴いていたんだろうか。
そう推測した俺は、読んでいた本から目を離してこう答えた。
「好きだから、じゃないか?独占欲の賜物だな」
好きで好きで好きで、好きすぎて。好きだからこそ、他の誰にも渡したくない。
その方法として、相手を殺すことを選んだ。
相手の命をもらうことで、その相手を手に入れたと思う。
俺はヤンデレじゃないから100%説明することは出来ないが、大体こんなとこだろう。
……少なくとも、30%は当たっていると思う。
聞いていたルカは、何やら不満げな顔だ。口を強く結ぶ表情が、ああかわいい。
「……理解は出来ますが、納得は出来ません」
「うん、俺もだよ。
ルカの事は愛してるけど、殺して手に入れようとは思わない。
ルカには、俺の側でずっと笑ってて欲しいからな」
そう言って笑うと、ルカはますます不満げな顔をして、そっぽを向いた。
「……貴方は何で、さらっと恥ずかしいことを言っちゃうんですか」
なるほど、照れ隠しか。
恥ずかしいから顔を背けたようだが、逆効果だった。
そっぽを向いた結果、真っ赤な耳が見えている。
「恥ずかしいも何も、本当のことだし」
「本当のことだとしても、恥ずかしいことだってあります。少しはsaveするべきです」
「さすが、発音いいな」
「話を聞きなさい」
毎回聞く度に思うが、ルカの滑らかな英語の発音は、聞いていて気持ちがいい。
……まあ、普通に会話している時に良すぎても、困ることもたまにあるが。
カタカナ英語に慣れた耳では、何て言ったか分からない時がある。
「聞いてる聞いてる。つまりはルカが、俺にドキドキしてるってことでオッケー?」
「聞いてないじゃないですか。全然違います。
それに、私は別に、貴方にドキドキなんてしてませんから」
「だって恥ずかしいんだろ?
イコール、ドキドキしてるってことじゃん」
「自分の都合のいいように考えすぎです」
ルカは呆れたようにため息をつき、またパソコンに向き直った。
そのまま、また動画を見始めるのだろうと思って見ていると、ルカの手はイヤホンを持った状態で止まった。
「……がくぽは、私のことをどれ位好きですか?」
「ん?」
一瞬、質問の意図が分からなかった。
それから今の会話を思い出す。
『好きだから殺す→じゃあ私をどれ位好き?』になったのか?
「……あのー、ルカさん?
まさか、俺がルカを殺しちゃうとか、そういう心配してる訳じゃないよね?」
もしそうならば、大変不本意だ。
「いえ、違います。
ただ単に興味が湧いただけです」
「そりゃよかった。
えっと、ルカをどれだけ愛しているかだよな?」
「どれだけ好きかです」
……別に、そこを否定しなくてもいいじゃないか。
ちょっと拗ねたい気分になったが、大人気ないのでそこは置いといて、ルカの質問に真剣に答えることにする。
「そうだな……。
殺すまではいかなくとも、閉じ込めて俺だけのものにしたい位には愛しているよ。
ルカが嫌がるだろうからやらないけどさ」
「誰だって嫌です」
間髪入れずに返答が返ってきた。
せめて照れる位の間は、あってもいいと思わないか?
けっこう決めたつもりなのに。
がくりと肩を落とす俺に、少しの間を空けてルカが言った。
「……でも……」
イヤホンを持ったまま、ルカが振り向く。
「ちょっと嬉しいです」
俺を見て柔らかく微笑む。
それからイヤホンを耳にはめて、今度こそ動画を見始めた。
前触れなく落とされた爆弾に、思わず口を押さえる。
「――――――っ!!」
――ああもう、この子は全く。
俺は、持っていることを忘れていた本に栞を挟んで閉じた。
そして、動画を見ているルカの背にまわって、後ろから抱き締める。
「がくぽ?どうしました?」
その言葉を無視して、ルカの耳のイヤホンを外す。
そして、ルカの顔を無理矢理後ろを向かせ、唇を塞いだ。
「んっ……」
舌をルカの口に入れようとした時、
どんっ!!
「ぐはっ!?」
「ぐはじゃないです!いきなり何をするんですか!」
ルカに思い切り肘鉄食らった。
ルカの腕力があまり無いおかげでそこまでのダメージでは無かったものの、さすがに肘は痛い。
鳩尾入らなくて良かったホント良かった神様ありがとう。
ルカを見ると、いつもは白いほっぺたに赤みが差している。かわいい。
思わずにやけると、ルカが眉根に皺を寄せる。
「笑ってないで答えなさい」
声を低くして睨み付けてくるが、頬が赤いままでは、かわいさしか感じられない。
「ルカが誘うから、誘われました」
「誘ってません!」
「いやいや、あれはどう見ても誘ってたって」
俺はもう一度ルカにキスしようと顔を近づける。
ばしっ!
叩かれた。
「私の邪魔をしないでください!」
「動画なんて後でも見れるだろ?」
「そっちだって、後でも出来るでしょう!」
「……へぇ……?
……つまり、後でなら、する気はあるんだ?」
にやりと笑う俺を見て失言に気づき、ルカは唇を強く噛んだ。
いつものクールな顔はどこへやら。焦りと照れが混ざった表情を浮かべている。
「っ……!」
言い逃れ出来ないと悟ったのか、イヤホンを耳につっこみ動画に集中する。
――でも、残念。
俺は後まで待てないんだ。
ルカの腕を自分の腕で押さえ、両耳のイヤホンを外す。
インターネットを終了させ、パソコンをシャットダウンした。
それからルカをお姫様抱っこして立ち上がった。
ルカは何かを言おうと口を開くが、反論の言葉が見つからないようで、口を開けたままだ。
丁度いい。
「んっ!?……んぁっ……っ!」
俺はさっき途中で止められたキスの続きをした。
舌を割り込ませようとするとルカが顔を背けそうになったので、身体と顔を極限まで近づけて逃げられないようにする。
歯の裏側を舐め、舌を絡ませる。時折、ルカの色っぽい喘ぎ声が洩れる。
一通り口内を荒らし、満足して一旦唇を離すと、唾の糸がまだ2つの口を繋いでいた。
息切れが少し治まると、ルカは酸欠で潤んだ瞳で睨みながら、上目遣いで言った。
「……ばかですか」
「馬鹿で結構」
俺は寝室に行くために、ルカをお姫様抱っこしたまま部屋を出た。
おまけっぽいど→