フォルダ1

□幸せ。
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「幸せすぎて怖いです」

「怖い?」

「怖いです」

「幸せなのに?」

「はい」

「どうして?」


そう尋ねると、ルカは少し口ごもり、困ったような様子で口を開く。


「幸せすぎて、逆に怖くなるんです……。
毎日毎日、あなたが側にいてくれていて。
小さいけれど、暖かい幸せが降り注いでいて。ごく稀にですが、マスターも歌を作ってくれます。私がこんなに幸せでいいのかと、怖くなるんです」


それは、俺からしたら「そんなことで悩む必要なんかないだろ?」という悩みだった。幸せなら、それでいいじゃないか。

……でも。
ルカにとっては、大きな悩みなんだろうな。


「幸せが媚薬のようで、えっと……うまく言い表せないんですけど……。
だんだん毎日が夢のように、朧のようになっていくのではないかと……。
幸せに包まれて……」


ルカの言葉はだんだん意味が曖昧になり、はっきりとしなくなってきた。おそらく、考えがよくまとまっていないんだろう。

全く。
理系っぽいくせに、俺には分からない変な感性を持ってるんだからなあ。


「大丈夫だよ」


俺は笑って、ルカの両頬をあまり痛くない程度につねった。


「!?」

「大丈夫大丈夫」


笑いながら、ルカの頭をぽんぽんと叩いたり、頬を撫でたりまたつねったり、そんなことを繰り返す。
ルカは、全く理解できないといった表情を浮かべている。

ははっ、崩れた顔もかわいいよな、ルカは。


「……意味が分からないのですが」

「あはは、面白い顔」


そう言うとルカの眉が少し真ん中に寄る。片頬が少し膨らんだようだ。ハリセンボン……のようにはなっていないけど、ルカの膨れっ面も見ててかわいいなあ。


「大丈夫だよ」

「何がですか」

「大丈夫。夢のように感じちゃっても、俺がこうやってほっぺたつねって起こしてあげるから。
安心しておやすみ」

「……」


一瞬ルカの目が揺らいだ。
……かと思ったら、口がどんどん膨らんでる。

思わず。


「ぷふうっ」


両頬を手で押してみる。やりたくなるよな?www
するとルカの口の中の空気が一気に漏れ、たこの口になる。


「リアルたこルカ!www」

「うるさいです!」

ぼこっ。

「いでっ」


思わず叫んでしまったら、ルカに腹を殴られた。
相変わらず手も口も速いなあ。そこまで痛くないから、思うのはかわいいくらいだけど。


ぼこぼこ。

「……」

ぼこぼこ。

「……」


いや……。

力がそこまで無いからいいけど、さすがにここまで殴られるのはちょっと……。


「ルカさんルカさん、あまり殴らないで欲しいです」

「……」

「ルカさん。ルカさーん、聞いてるー?」

「……」

……ぎゅっ。

お。

ルカが抱きついてきた。ぎゅうっと腕に力が入っているのが分かる。
無言で俺の胸に顔を押し付けてくる。

俺はそんなルカを抱き締め、右手でぽんぽんとルカの頭を撫でた。


「ありがとうございます……」


くぐもったルカの声が、小さいけれど聞こえた。


「どういたしまして」


俺は微笑んで言った。





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