オリジナル

□『桜の話』 完
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「おや、お帰りなさい、3人共」

「紫乃さん、ただ今戻りました!」

「……その2人は、何を泣いているんですか?」

「シュトラウス少年が、シュトラウス少年がぁ……っ!」

「ちくしょうザックスの野郎!!アイツはぜってぇ許さねぇ……!」

「……おい夕凪、何があったんだコイツら?」

「シュトラウス少年が頑張っただけだよ。
お昼、まだ残ってる?」

「あーうん、一応4段残しといたぞ」

「あ――っ!!高ちゃん先生、パンプティング食べちゃった!?」

「ああ。美味かったぞ!」

「堂々と言うなっ!!よりによって、僕が楽しみにしていたヤツを……」


僕のパンプティング僕のパンプティング僕のパンプティング……。

高ちゃん先生…………。

ちょっと、これは…………。

許せないなあ…………。


「高科先生…………」

「んー?何だよ夕凪、デザート位でそんな怒るなってwww」

「……ねぇ、高科先生っ。僕は作ってからずっと楽しみにしてたんだあ。
桜の木の下でさ、柔らかい風に吹かれながら、穏やかな気持ちでパンプティングを食べることを。静かな自然の中でパンプティングを食べることを。
それはさぞ美味しかろうとねえ……」

「ああ、想像の通り美味かったぞ。
お前いいこと思いつくなー」


笑いながら、高科先生が酒を紙コップに注いで一気に飲みほす。

チッ。

その余裕綽々の態度が、とても頭に来ちゃうよ先生。

消したくなるね。

死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに。


「ふふっ」

「ははっ、なーに笑ってんだよ。こっち来て一緒に飲もうぜぇ。
そんなに甘いもん欲しいなら、今度ケーキでもおごってやっから」

「……何ホールかなぁ〜?」

「ははっ、ホール数えかよっ。
若いもんはすごいねぇ、1ホールだよ、決まってんだろぉ」

「2ホール」

「1ホール」

「2ホール」

「……1.5ホール」

「……まぁ、それでいいでしょう」
仕方ない、それで手を打とう。終わったことをぐだぐだ言っても仕方ない。

怨みは残るけどね。


「よっし、じゃあお前も飲め飲め!
花見には酒と決まってんのさ!」

「教師が生徒に酒勧めるとか、PTA問題になっちゃうよ?」


お酒が注がれたコップを渡され、一口飲む。

全く高ちゃん先生め、もう酔っぱらっちゃってるよ。やれやれ。
絡み酒うざい。酒くさい。

僕らが水道行ってる間に、どんだけ飲んだんだろう。


「ぷっはーっ!!やっぱ桜はいいねぇ!」

「高ちゃん先生は、酒飲めれば何でもいいんでしょ?」

「ははっ!よく分かったなぁ、その通り!さぁ、お前ももっと飲め飲め〜っ!」

「絡んでくる酔っぱらいの酔い方は最悪だよお」


高ちゃん先生が、飲んだそばからどんどん注いでくる。
わんこそばじゃあるましい。あれ?あるらしい。あれ?あ、あるまいし。
やば、もう酔ったかなぁ。

僕はお酒に強い方じゃないので(つーか未成年ですけど)、誰かに代わってもらおうと、皐月たちの方を見る。


「うっうっ、シュトラウス……」

「はい、よしよし〜。これでも飲んで落ち着いてください」

「うっうっ……」


ハヤトが泣きながら飲んでいる(だから未成年だろ)。
なるほど、ハヤトは泣き上戸か。予想通り。

んで皐月は……。


「わははは!いつまでも泣いてんじゃねぇよバカヤト!」


で、皐月はテンション上がるタイプ(だから未成年だってば!)。

じゃあ紫乃さんは……。


「はいはい、落ち着きなさい。
皐月、あんまり騒がないでくださいね。他の方々の迷惑にならないように」


わぉ、全然酔ってない。強いな紫乃さん。

お酒に強いって憧れるなあ、かっこよくて。ますます好きになっちゃうよ。

それは置いといて。この3人の中からか。

…………よし。


「紫乃さーん、ハヤト貸してもらっていいですかあ?」

「ええ、どうぞ使ってください」

「ありがとうございまーすっ」


よし。

ハヤトを無理矢理連れてくる。
ハヤトは泣きじゃくりながら、適当に座った。

泣くとさらにうざいなこいつ。


「うっうっ……」

「わはは!何泣いてんだよハヤト、おら飲め、飲んで忘れろ!」

「うっうっ……、うえぇぇ……っ」

「うわはは!さらに泣いてやがるコイツ!おらおら、もっと飲めーっ!」
よし、ここはハヤトに任せた。
皐月に任せたら、さらに騒がしくなるし。紫乃さんにそんなの頼めないし。

パスするような気持ちで、ぽんとハヤトの背中を叩く。
わあ、さらに泣いた。うざい。

逃げるように、僕は紫乃さんの横に座る。


「こんにちはあ〜っ」

「おや、いらっしゃいませ」

「飲んだくれに付き合ってられないので、ハヤトに任せてきちゃいました〜。
えへへ〜」

「あら、それは災難でしたね。
ハヤトが役に立ったようで何よりです」

「紫乃さんは全然酔ってませんねえ、すごいです〜」

「どうもお酒に強いみたいで。なかなか酔えないんですよね」

「そうなんですかあ、いいなあー。うらやましいです〜。
僕はお酒飲むと、すぐに眠くなっちゃうんですよ〜」


また出てきた、小さなあくびをかみ殺す。


「眠いのなら、寝てもいいですよ。なんでしたら、私の膝を貸しましょうか?」

「でも、……ふあぁ。悪いですよ……」


やば、本格的に眠くなってきた。

高ちゃん先生が一気に飲ませるからだ。

高ちゃん先生のせいだ、ばかやろ。

……ふわあ。


「私のことは気にしないでください。
……大丈夫ですよ。貴方のことは嫌いじゃないですから」


紫乃さんが僕の頭をなでる。

紫乃さんには、包容力がある。以前抱きしめられたときに感じたこと。

一気に眠くらってくる。やば、また間違えた。


「じゃあ、お言葉に甘え……ふあ。
甘えて、膝貸してください〜……」

「ふふっ。はい、どうぞ」


こてんと横になって、紫乃さんの膝に頭をつけた。
ふわりといい香りがする。さらに眠くなってくる。

目がゆっくりと重くなって、とろんとする。

紫乃さんが、着ていた羽織を僕の体にかけてくれた。

とても温かい……。


「あ……」


そうか、そうだったんだ。


この、紫乃さんから漂ってくる、いい香り。

どこかでかいだような、柔らかいこの香り。


今気づいたよ。


そっか、これは……。


「おやすみなさい、夕凪くん」





この香りは、桜だったんだ……。
 

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