オリジナル

□一番大切な人。
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「ねぇ皐月。皐月の1番大切な人って、誰?」


休み時間になったので、僕は皐月の机に行って尋ねた。


「は?」


問われた皐月は、訳が分からない言うような顔で、眉根に皺を寄せて口を∞の形にした。
まあ確かに、脈絡ないし、分からないのも無理はない。てか、理解されたら僕の方がびっくりだ。


「えーとね、さっき読んでた小説の中に、ネタでそんなのがあって。で、たまには僕らも漫才じゃなくてそういう真面目な話をするのもいいかと思って。

なんか甘酸っぱくて、青春みたいな感じしない?
僕らも一応高校生。青春真っ盛りだよ?漫才に限らず、色んなトークをして、若者らしく過ごすべきなんだ!

で、誰?」


僕は長ったらしく中身がない演説をしてから、もう一度皐月に尋ねた。すると皐月は諦めたようなため息をついた。
きっと、「こいつだしな……」とか失礼なことを思ったに違いない。全く失礼な。
それからちょっと顔を赤くして、小さな声で言った。


「……お前が1番大切だよ」

「あれ、紫乃さんはいいの?」

「ああもーうっせーな!何度もこっ恥ずかしいこと言わせんな!お前が1番なんだよ」

「わぉ青春。あはは、なんか恥ずかしいな」


皐月の顔がじわじわと赤くなっていく。それにつられて、僕も少し頬が熱い。
美しい友情だね、うん。なんか照れ臭いや。皐月みたいな友人を持てて、僕は果報者だなあ。

だってほら、アレだよ!?美少女顔した可愛い子が、自分を1番大事だって言ってくれたんだよ!?やっば、僕って勝ち組!?それともこれ死亡フラグだったりすんの!?ちょ、こわwww


「……なんか勘違いしてねぇか?」

「あれ?どっか勘違いしてた?
えっと、“皐月の1番は僕”ってことで受け取ったんだけど、違った?」

「いや、合ってるけど……。なんかニュアンス的に」

「そうかい?まあいいじゃないか」

「いやそこ重要だろ?」

「ふーん」

「……」

「……」


話が行き詰まったので、ここで切ろう。無言。
……そろそろ戻るか。


「じゃあ、僕は席に戻るね。ありがと」


しゃがんだ状態から立ち上がり、皐月に手をひらひらと振る。そして席の方に身体を向けた。
すると、皐月に声をかけられた。


「あ。なあ。お前の一番大切な奴は誰だ?」

「そうだね……」


皐月が答えたんだから、僕も答えないとフェアじゃないよな。休み時間も残り少ないし、特に冗談も言わないでおく。


「やっぱみゃーくんかな」

「人でお願いします」


冗談は言ってないよ。……言ってないよ(斜め上)。

人か?人かー。うーん、人ねー。
紫乃さんは綺麗だしカッコいいし美人だから好きだし、皐月もかわいいしカッコいいし楽しいし好きだし、高ちゃんは犬派で相成れないけど綺麗だし美人だしカッコいいし好き。ハヤトも、死ねばいいし。

でもまあ。

さっき、皐月が嬉しいこと言ってくれたし。


「皐月が一番だよ」

ダンッ!!!


皐月が思いきり机をぶっ叩いた。クラス中の視線が集まる。僕は適当にごめんごめんと笑って謝ってから、皐月に話しかけた。


「皐月、どうしたの?」

「……今言った言葉、もっかい言ってくんね?」

「皐月、どうしたの?」

「一個前」

「えーっと、皐月が一番だよ」


そう言うと、皐月の顔がみるみるほころんでいく。
いや、緩んでいく?にやけていく?まあ、そんな感じ。


「皐月、ホント大丈夫?」

「えっ!?あっ、おう、大丈夫大丈夫!気にすんな!」

「?……うん、分かった。そんじゃ、今度こそ席戻るね。ばいばいー」

「おう、じゃあまた!」

なんか挙動不審だけど、まあいいや。かわいいし。

僕は今度こそ席に戻った。集まっていた視線もだんだん外れていく。

席について皐月を見てみたら、腕を組んで頭を乗せるという、いわゆる『おやすみポーズ』をしていた。


次の授業中も、ずっとそんなんだった。
担当が高ちゃん先生だったから、最初に、


「おいお前、何やってんだ」

「……気にしないでください」

「おう、分かった」


という会話だけで済んだが。
授業中も、そのポーズのまま微動だにしなかった。
どんだけ眠かったんだろう。





(ああくそ嬉しいまじ嬉しい「皐月が一番」っつったか!?言ったよな!?よっしゃよっしゃ、俺が一番俺が一番……)




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