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□もう、馬鹿。
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「狩屋君は霧野さんのこと好きなんだろ?」
「………先輩、何キャラ気取ってんスか」
部活も終わってとっくに制服へと着替え終わった。
さぁ帰るぞ、と通学鞄を肩に掛ければ「あ、狩屋ちょっと待ってて」なんて、当然俺が断る訳が無いとでも思っているような感じで下校を誘われた。
えー、しょうがないから待っててやりますけど。
別に急いでいるわけでもなかったしそう答えれば、サンキュ、なんて女の子よりも女の子な笑顔で言われてくすぐったくなる。
先輩絶対その顔武器になりますよ。
ちょっと心拍数が上がった心臓に気付かない振りをして嫌みっぽく言えば、
ニヤリと唇を歪ませた先輩が冒頭の会話を始めたワケである。
「何キャラって…俺キャラ?」
「はい馬鹿ですかわかります。つーか、あと3秒で準備終わしてくださいさーん、にーい…」
「ちょちょちょっ!待って待って!!」
「………いーち、………ぜろ。はい終わりましたね行きましょう」
「………狩屋君冷たい。ツンデレ?」
「何言ってんだ女顔」
少し早歩きをすれば、何も気にした様子を見せずにちゃっかりしっかりきっかり、隣についてくる。
(………何か、ムカつく)
嫌、別に早歩きごときで先輩をまけるとはもともと思っていなかったけれど。
「…かーりや、俺は狩野のこと大好き」
「…何言って…っ!!」
急いで先輩の口を手で覆って周りを見渡す。
ーよかった、誰も見ていない…。
ホッとしたのも束の間、覆っていた手を暖かい何かがなぞる。
「ひゃうっ…!?」
「……へぇ。狩屋の弱いところはっけーん♪」
「このっ………変態鬼畜女顔がっ!!」
何で公衆の面前でこんなことするんだ、と睨みつけてやれば
赤い顔で責められても、と楽しそうに言うだけだった。
「なぁ、狩屋は俺のことどーなの?」
「……は?何が?」
「俺のこと好きか?ってこと」
「……………………」
馬鹿、馬鹿、馬鹿。
わかってるクセに。
「…このっ、ドS!!」
「だーれが。…ホラ、言ってみろよ」
ふわ、と汗の匂いと混じった霧野先輩の香りが鼻をかすめる。
と、思ったら手を繋がれた。
「………もう、馬鹿」
「え?何?何だって?」
ニヤニヤとその可愛らしい顔を歪ませてうつむいた俺を覗き込んでくる。
…きっと、俺の頬がこの夕日と同じくらい染まっていることなんか、どうせ気付いてるんだろうな。
「……………すき、です。……先輩」
「…………狩屋っ………!!」
もう、ばかバカ馬鹿っ!!
これ、アンタが思ってる以上に恥ずかしいんだからなっ!!
顔を背ければ繋がれた手がもっとぎゅう、と握られた。
「…ヤベー…。すげー嬉しい」
「………………ばーか」
でもさ、たまにだったら。
本当たまにだったらこうして言ってやってもいいかもしれない。
嬉しがるアンタの顔が見られるんなら。
……なんて。
思ってしまったことは、口が裂けても言ってやんない。
 
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