short

□二人になる
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好き、という言葉が
台詞が
やけに耳に残った。
 
[二人になる]
 
「ありえない程一杯ありますね」
「全くだ…」
積み重なったダンボールをまるで縦線でも描かれそうな表情で見やる狩屋。
いつもどおり放課後の部活の時間帯でありいつもどおりサッカーをしていたのだが
マネージャーの瀬戸から
「部室にあるダンボールを運んでおいて欲しい」と頼まれたのだ。
(……それにしても)
なんだか最近、コイツの様子が可笑しい。
なんというか、よそよそしいというか、
………距離をおかれている?
…………………。
うわ、何でこんな予測ごときでショック受けてんだ俺は…。
でもさ狩屋って俺のこと嫌いでは無いと思ってたんだけど。
恋してる瞳で俺を見てくるから、うぬぼれかも、と心配はしたが
俺と目が合った後に頬を朱色に染めたところを見たらそう思うしか無かったんですけど。
「狩屋」
「……なんスか」
あ、ホラ…また。
俺のほうを見ようともしない狩屋に胸が痛くなる。
なんだ、そうだよな。
そんなのはただの勘違いってワケ。
 
 
「…はー。疲れた…瀬戸先輩人使い荒いー」
ドサ、と冷たい床に倒れ込むようにして座る狩屋。俺も同じ気持ちだったから多大に同意。
「………」
「………」
「………」
「………先輩、は…」
「…ん?」
「……やっぱ何でも無いです」
何か言いたそうに口をもごもごとさせる彼を見て首を傾げる。
そっと隣に座れば、後輩の手が真っ赤に染まっていることに気づいた。
「……どうかしたのか?狩屋?」
熱でもあるのかと思って心配してみれば「大丈夫です」とアッサリ否定される
「そうか?…じゃ、戻るか」
スタ、と立ち上がったところを、
いきなり現れた腕にヒニフォームが引っ張られて勢いよく床へと座り込んだ。
「かり、や……?」
「…………」
一向に手を離しそうもなくそれでいて話しそうもない後輩の意図が掴めず取り敢えずと名前を呼ぶ。
しかし、何も展開は無く一向に黙っているだけだ。
(…どうしたんだコイツ。つーか、避けておいたクセに、俺のこと嫌ってないのか…?)
誠に意味がわからない。
どうした、そろそろ部活に行かないと神童達に怒られるぞ。
そっと頭を撫でてやって顔を覗き込んだら、先輩は…っ、ともう一度狩屋が小さく唸った。
「…俺が、何だ?」
「……先輩は、そんなにキャプテンが好きなんですか……っ?」
「…………………………………は、あ?」
キャプテン?
って、神童を?
ー…俺が、か?
……………………………?
「あの…さ、狩屋サン?神童は確かに格好いいし可愛いし優しいしピアノ弾く姿は惚れても不思議じゃないしっていうか確かに好きだけど…」
「…………」
親友として、好きなだけなんだけど…?
本音をまぁ偉く正直に言えば
「…え、」
と、間の抜けたような声が聞こえた。
「……なんで?」
「…き、霧野先輩はキャプテンのことが好きなのかと…」
「………何だ、ソレ」
どうして俺が神童を?
意味がわからなくてはぁ?と聞き返せば
「俺だって色々心配だったんですよぅ!!」
とか泣きそうになりながら(というか瞳に薄い膜を張って)反論してきた。
……は?心配?
「………狩屋、俺が神童のこと好きなんじゃないかって心配してたのか?」
「…………はぁ!?ンなワケないだろばかっ!!女顔っ!!性別詐欺っ!!」
「……………………」
痛い。心が。
期待して損した。……ついでに心も折れそうだ。
テメェ…っ!と思わず怒鳴りたくなったが気力も無くはぁ、とため息をついて過ごす。
ほら、いい加減にしねーと神童キレるぞ。
手を引っ張って立たせてやれば、「先輩の馬鹿」と呟いて立ち上がった。
「好き、好きです先輩っ…!!」
繋いだままの手をぎゅ、ときつめに握られる。
緊張しているのか瞑ったまつげがふるふる、と震えていて
その目で俺を見て欲しくなって思わずちゅ、と瞼にキスをした。
「…………、へ…?」
「狩屋のばーか。俺はオマエが好きだっつーの」
「………まじで」
「マジマジ大マジ」
やったぁ…、と自分の手を見て笑顔になる可愛い後輩にこらえ切れない愛おしさが込み上げてくる。
ああ、なんだ。
オマエも俺と同じ気持ちだったんだな。
「…付き合おっか、俺達」
「せん、ぱいっ………!」
今度は抱きしめて耳元でもう一度好きだと言えば、くすぐったそうに笑う狩屋が居た。
 
(それにしてもアイツラ遅くねー?)
(あー、いいんだよ。目的通り)
(は?神童何それどーゆー意味ー?)
 
実は神童のさしがねだったり。

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