short

□トキメク条件
1ページ/1ページ

ガサガサ。
聞きなれたコンビニ袋のかさばる音。
「オラ、買ってきてやったぞ」
なんだかイラついているような微妙な表情で袋を掲げて部屋に入ってきた。
「おー、サンキューです」
「…普通先輩様をパシリにするか?」
「だって霧野先輩だし」
「テメェ…」
笑ったまま口元を引きつらせるという奇妙な顔芸をさせた先輩。俺が座っているソファの横に来たかと思えば勢い良く飛び込んできた。ギシ、と音が鳴って反動がくる。…なんだ、いきなり。
「―――ギャーッ!!なんですか先輩っ!…はうぁっ」
やけにくっついて座りやがったこの先輩。とか思ったら急に抱きついてき…擽ってきた。
思わず強めの足蹴りを披露したが大して効かなかったようだ、…―クソ。
「霧野先輩にパシリさせた罰ー」
「いやいや、だってアンタジャンケンで負けたじゃないですか」
「ンなの忘れたー」
「バカなの?死ぬの?先輩」
「……死なない。まだ狩屋といたい」
「…」
なんなんだ一体。
そんなんで俺が、この俺が少しでもときめくとでも思ったのかこの人は。
――残念でしたね。こっちは現在進行形でめっちゃときめいてるわバカ!
ていうかバカなのは否定しないんですかやっぱり。
「んー。狩屋狩屋狩屋狩屋」
「…え、なんですか先輩。なんかの呪いですか」
変に熱を持ってしまった頬に手を当てて冷やそうと試みていると、とうとう可笑しくなったのか腰に抱きついてきた先輩。
だって、同じ言葉を連呼しているのって端から見たら怪しすぎるでしょ。
「いや、違うな。ただ狩屋補充してるだけ、みたいなかんじか?」
「……すいません。言ってる意味がよくわからないんですけど…」
前言撤回。『可笑しくなった』じゃ無かった。
『可笑しかった』だった。―俺としたことがこんな初歩段階の間違いをするなんて!!
心の中で己の失態を悔いていれば、
「ぎゅー」
突然先輩の甘い囁きが聞えた―…、…げ。
「…え、先輩?」
「ん?どうかしたか?」
「……」
いや、どうかしたのはアンタじゃねぇか。
なんで俺抱きしめられてんの?
いきなりどうしたのこの人。
ちょ、ちょ、其処で息すんな――あっ!
「離せホモ野郎」
「ヤダ。…つーか俺ホモじゃないから。狩屋が好きなだけだから」
え、何この人。
俺男じゃなかったの?
――いやいや、今日もしっかりばっちり男の象徴目にしたわけで、別に俺が性別を偽ってる訳では無いんだけど。
「狩屋のこと、男でも女でも多分好きになってたな、ってこと」
「……何言ってるかわかんないんですけど。――頭可笑しいんじゃないですか」
ああ、そうかも。
なんて、綺麗に笑う先輩にますます朱色に頬が染まった顔を見せたくなくて
ぐりぐり、と頭を先輩の肩に押し付けたらますますぎゅう、と抱きしめられた。
 
【トキメク条件】
 
(好きって言ってくれること)
(抱きしめてくれること)
(先輩を好きであること)
(だからやっぱり)
(いつもトキメク、)
(…なんて、言ってやんないですけど)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ