short

□ストロベリー恋愛
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自分にとって「キス」というものは只の行為でしか無かった。何か特別な意味があってしていたのかと問われれば恐らく自分の首は横に振られるであろう、只それだけ。
特別な意味合いなど感じたことも、考えたことも無かった。
唇と唇が合わさるだけ。時折舌が行き来したりして、快楽を得る手段?繋がった銀色の糸を眺めるのは好きだったし、キスという行為自体は気持ち良くて好きだった。
その行為が只自分にとっては特別という意識が無かっただけで。
「…ー霧野クン。キス、して?そしたら……」
「……………そしたら?」
「諦めてあげる」
「………へぇ」
部活も終わった下校時刻。夕暮れで染まった校舎裏。其処に向かい合う男女(見かけによっては女子同士に見えなくも無い)。
既に、おお、絶賛青春中じゃねぇ?俺。なんていう感情を抱ける年頃と純粋さは過ぎ去ってしまっていた。
目を瞑る彼女にそっと顔を傾けて近づいて行く。同時進行で自身の目も自然と閉じる癖がついている自分。
ちゅ、と軽くバードキスを贈る。
そして潔く離れようとした唇に、今度は彼女のほうから吸い付いて来た。
「…ん、ふぁ、……は、」
「……………」
俺の唇を使って勝手に快感を見いだしている彼女を無理やり引き剥がす。結構激しい行為。慣れてんだろーな、多分。
「………キスしたら諦めるって言ったろ」
「…、だってあんな…足りないじゃない」
何が足りないんだ?キスはキス。どんな行為でも唇と唇が合わさってさえいれば古来から伝わる接吻とやらだろうに。
「ねぇ、べろちゅーしてよ。思いっきり激しいのシよ?………そしたら諦めるから」
「…………………いいよ」
そして、笑顔。
嬉しそうに唇を合わせてくる彼女。舌で歯列をなぞって舌を絡めて甘噛みして吸って…。ご希望通り彼女が立てなくなるくらい激しいのをプレゼントしてやれば艶っぽい吐息を漏らす。…どうしてだろう、こんなことしてるなんて。
普段はねだられてもめったにしないのに。
…ああ、そうか。
この子、似ているのかもしれない。
俺の想い人に。…顔は似てないけど。なんとなく?雰囲気、かなぁ。
まぁいいや、早く帰ろう。今日は七時から見たい番組もあるし。
コンクリートに座り込んだ彼女を立たせてから校門へと歩き出す。西に傾いている太陽はあと三十分もしたら山に隠れてしまいそうだ。
神童には先に帰ってもらったし俺も帰ろう。
「………あ、」
「………え、?」
校舎を曲がれば、聞き慣れた高めのテノールが前方で間抜けな声を紡ぐ。
つられて声の発生源を見ればそれは、今一番会いたかったであろう後輩。所謂俺の想い人にあたる人物。「…なにしてんだ」「…先輩こそ」
狩屋は何か涙でも流したのか目が赤くなっている。……そういうのも、さりげなく色っぽい。とは、悔しいから言わない。
「…先輩って、なんなの?」
「はぁ?何が?」
「…………先輩は好きじゃない人ともキス出来るんですね」
「……………あー…。………見てた?」
「……………まぁ、」
沈黙が、痛い。速くこの場から離れたいのに。
「…先輩ってさぁ」
「………………」
意味わかんない。 ふーん? …それだけ? え、それ以外にも言葉欲しいの? …なんで、とかさ。色々あるじゃん。 …だってわかるし。 そうだったんだ?「先輩は…、霧野先輩はさ、……俺に…っ、好き、とか言う癖に」
ああ、そうか。
俺は全てを悟った。
狩屋は俺に告白されて戸惑ってたんだ、多分。
そしたら俺のキスシーンを多分偶然見たんだろう、…きっと。というか、それは俺の都合良く解釈した予想だったりするのだが。
「………付き合ってる人、いるんじゃないですか」
「…いないけど」
「だってさっき…っ!」
「……彼女では無いし」
「……それじゃあ、もっと最低だろ…!」
ああ、確かに最低だよ。でも、こうするのが一番手っ取り早かったの。 
少し察してよ。なんて、別に本気で求めているわけでは無いけれど。
「だって先輩…俺のこと好きって言ったじゃないですかっ」
「好きだよ」
「どうせ嘘なんだろっ!!」
「……嘘じゃない。狩屋とならキスもハグもそれ以上だってしたいもん」
「…………アンタは信用出来ない」
キスなんて、ただ唇が重なり合っているだけじゃないか。どうしてそんなに怒るんだろう。
大体俺が好きなのはお前だって言っているじゃん。いい加減認めて欲しい。どうしてそんなに信用しない?俺、恋にこんなに熱心になるのは初めてだったから。 
「…………ねぇ、本当に俺のこと好きなんですか?」
「ああ。愛してる」
「…………恥ずかしい人ですね」
「……いい加減返事頂戴?」
「………………………」
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