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□熱に浮かされた午後
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昼食後の授業はポカポカと心地の良い日当たりも合わさって眠気を誘う時間帯だと思う。
普段は真面目に受けている類に入るであろう自分でさえ思わずあくびをしてみれば、周りには既に寝ている人も多かった。
教師の声でさえ子守唄に聞こえる、という緊急状態に陥ればもうどうしようもないと腹を括り授業から意識を窓の外へと向ける。
少しでも眠気を覚まそうと窓の外を眺めていれば、見慣れた桃色の髪を弾ませてハードルを駆け抜ける部活の先輩が居た。
 
(……あ、…霧野先輩だ)
 
眠気は飛んでしまったが結局授業には身が入らず、手にしていたシャープペンシルをノートの上へ置き空いた手で頬杖をついた。
 
(…あ、)
 
横一列5人でスタートしどうやらタイムを計っているらしいが50m先のゴールには桃色の髪がトップで着いたようだった。
次の列ではキャプテンが一番でつき、キャプテンや他の同級生とまとまって笑いながら楽しそうに話している。
「…………………」
その様子が何となく面白くないと視線でグラウンドを二周させてからもう一度先輩を見ると、丁度こちらを見ていた霧野先輩の視線と視線が絡んだような気がした。
「…………」
逸らせない。
絡んだ視線は、まるで俺の思考回路をえぐり出して覗くようだ。
「………ぁ」
昼食後の授業は眠い。
繋がった視線が一瞬たわんだかと思うと先にはこちらを真っ直ぐ向いて綺麗な笑顔で手を振っている先輩が居た。
 
[熱に浮かされた午後]
 
遠慮がちに、教師に見つからないように小さく振り返すと少し熱を持った頬に手を当てる。
(…あんな綺麗な顔で手なんか振りやがって…)
頬から手までうつった熱は温かった。

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