book

□03
1ページ/1ページ


お昼の時間です。
さあ、食堂に行きましょう。今日の日替わりランチは何でしょうか。メニューが沢山あるので、選ぶのに迷ってしまいます。
でも、今日は午前の仕事がずれ込んでしまって今は昼休みが終わるまであとちょっとのため、殆ど売り切れてしまっているかもしれません。好き嫌いはありませんが、こういう日に限ってレアな定食があったりするので、私は今ちょっぴりそわそわしています。

「あれ、君…阿鼻地獄の?」

そんな時、食堂の前で私に声をお掛けになったのは、彼の有名な閻魔大王様。大王様は、どうやら私のことを見知ってくれていたようです。

「はい、苗字名前です。」

「ああ、そうそう。名前ちゃんだ。名前ちゃんも今からお昼?」

「はい、大王様もですか」

「うん、そうだよ」

大王様はよく鬼灯様にイビり倒されていますが、この地獄の頂点に君臨されている御方なのです。とても偉い方なのです。

大王様が注文しているシーラカンス丼はとても気になりますが、流石にシーラカンス丸々一匹はお腹に収まらないので、私は普通のお魚定食にしました。

この時間帯なので、獄卒達は殆どいません。
どの席に座ろうか迷っていると、大王様が隣の席においでよと手招きしてくれました。
お言葉に甘えて大王様の隣へ行きます。
大王様は大きいので、その影に隠れて見えなかったのですが、向かえには世○不思議発見を視聴されている鬼灯様もいらっしゃいました。
三人でご飯です。

「ハアー…しかしいいなぁ海外かあ…」

世界不○議発見の影響か、閻魔大王様が呟きます。多忙の中、私的に旅行に出掛ける暇はないのでしょう。鬼灯様は日頃のストレスをよく大王様で発散していますが、(ほら、今も大王様に金棒をごりごりしていらっしゃる)、やはり旅行などで仕事から解放されたいのではないでしょうか。

「でもオーストラリアは私も行きたいです」

当たりました。

「綺麗だし独特の自然がいっぱいだしねぇ」

「ええ、それに…コアラめっちゃ抱っこしたい」

「コアラッ!!?」

「ああ、分かります。私もコアラもふもふしたいです」

「分かりますか。」

「いやいや、君、どっちかっていうとタスマニアデビル手懐ける側だろ!?」

「失敬な!どちらかといえばワラビーとお話したい側ですよ!」

「君の頭ん中割とシルバニアファミリーチックだな!!?」

鬼灯様の意外な一面を知りました。サディステックなことばかり考えている方と思っていましたが、メルヘンな脳もお持ちのようです。いいえ、決して馬鹿にしているわけではないのです。
思えば鬼灯様は趣味で金魚草を品種改良などして愛でていらっしゃる動(植)物愛好家だと上司が話していたようないなかったような。
私は金魚草は食用としかみていないのですが、今度よくじっくり観てみましょう。もしかしたら意外と可愛いのかもしれません。
あ、味噌汁に人参が入ってます。
人参は苦手です。
今のうちに大王様のお椀に入れちゃいましょう。

「好き嫌いはいけませんよ。」

バレました。

「そういえば、名前ちゃんは好きな人とかいないの?」

私がダラダラとナレーションをしている間に、話はどんどん進んでいたようです。
好きな人、ですか。まるで人間界の女子高校生の会話ですね。そういう甘酸っぱい気分を味わいたいのでしょうか。

「うーん、…いませんね」

「えー、そうなの?」

「何百年と生きてきましたが一度も恋愛感情を抱いたこともないですし、多分抱かれたこともないですね」

「あなたが鈍感なんじゃないですか?」

「ちょ、鬼灯くん辛辣!」

「でも尊敬している方はいますよ」

「へえ、誰々?」

「閻魔大王様です」

「え…、ワシ?ワシなの?本当に?やったあ!ねぇ、聞いた、鬼灯くん。ワシだって!尊敬している人はワシだっ…グフッ!?」

鬼灯様の金棒が大王様の顔面にめり込みました。
流石鬼灯様、上司にも容赦がありません。

「すみません。五月蝿かったので、つい。」

「大王様、大丈夫ですか」

「う…うん、何とか…」

「しかし…何故こんなやつを…」

「こんなやつってワシのこと?ねえ、鬼灯くん。ワシのこと?」

「うーん、この広い地獄を統べていらっしゃる権力者なのに、その権力を無闇に下の者に振りかざそうとせず、寧ろ誰にでも友好的に接してくれる温厚なところが好きです」

「名前ちゃん!」

「そうでなかったらとっくに謀反を起こしています」

「名前ちゃん…」

「そうですか…」

さて、ご飯も食べ終わって人参も移し終わったので、そろそろ仕事に戻りましょう。
お皿を重ねて返却の準備です。

「あれ、食べ終わったの?」

「はい、御一緒させて頂き、ありがとうございました」

大王様と鬼灯様とお昼を食べるの楽しかったです。
この時間帯に来ると大王様や鬼灯様に会えるんですね。良いことを知りました。
また一緒にお昼を食べたいです。
あ、そうだ。言い忘れていたことがありました。

「鬼灯様」

「何です?」

「私、鬼灯様の方が好きですよ。それじゃあお先に失礼します」

毎日一生懸命な地獄一の働き者ですからね。
一番尊敬してます。
一番憧れています。
鬼灯様は私の目標です。

「………。」

「ふふ。良かったね、鬼灯くん」

「………。」

「イタタタタタ!なんで金棒でベシベシするの!?ねえ!」

「いえ、何となくウザかったので、つい。」





後日、世界不思議○見で当選してオーストラリアへ旅行に行ってきた鬼灯様からお土産を頂きました。



不意打ちって、ドキッとくる。心臓に悪いから止めてほしい。嘘です。
ちなみに我が家では、味噌汁に人参やら何やら沢山入ってます。具沢山。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ