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出張から帰ってくる途中、同じく出張帰りの鬼灯様にお会いしました。
次に行く場所も閻魔殿と、これまた同じなので、一緒に向かうことになりました。
バスだと時間がないので、タクシーを利用することになりました。
タクシーといえど、現世とは違って、こちらでは妖怪の朧車や龍などが乗り物として活躍しています。
目的地へ向かうのに、空を飛んで行くので、私は今とてもわくわくしています。
タクシー、好きです。
確かに、好きです。
とても魅力的です。
でも、だからといって、ネコバスとイコールで結ばれる存在というのには同意しかねます。
さて、そろそろ朧車に乗り込んで、出発と致しましょう。
「それにしても…羨ましいですぜ、鬼灯様。」
「何がです?」
「そんな可愛らしい女性と二人っきりで…、デートですかい?」
「彼女は私の部下ですよ。」
「ちなみにデートじゃなくてお仕事ですよ。」
鬼灯様から出張先で購入したと思われるお団子を頂きました。
もちもちしていて美味しいです。
お団子を食べながら、外の景色を楽しむとしましょう。
「わー、凄く高いです。高いですよ」
「良い眺めでしょう、お客さん」
「はい。今ならここから飛べる気がします」
「ええっ…、と、飛ばないで下さいよ」
「さーん、にー、いー…」
「お客さんんんん!?」
「落ち着きなさい。」
目の前を何かが物凄い速さで通り過ぎました。
その後トンッと壁に何かが刺さった音がしたのでそちら見れば、壁には団子の串が見事に突き刺さっていました。
言うまでもなく、鬼灯様が投げたものです。
あ…危ない方です。
でもお陰で目が冴えました。
「すみません。高い所に行くと、変な方向にテンションが上がってしまうんです」
「今後、高い所に一人で行かないで下さい。行くなら必ずストッパー役を一緒に連れていって下さい。」
「はいはーい」
「『はい』は一回。」
「はーい」
この後、朧車さんの怪談を聞いたり、四谷怪談でお馴染みの、現在はタクシーの明かり役でご活躍中の於岩さんが会話に加わって盛り上がっていたのですが、その途中で朧車さんが急ブレーキをかけたので車内の雰囲気は一変しました。
しかも私に至っては、急ブレーキで頭をぶつけました。
痛いです。地味に痛いです。
でも取り敢えずここは我慢して、先ずは状況確認をしなければ。
簾から頭を覗かせれば、前方にフラフラと漂うもう一台のタクシーが見えました。
私達が今乗っている朧車さんのお友達のようです。
すると今度は烏天狗警察の方々がやって来まして、彼らに話によると、どうも指名手配犯があのタクシーに乗っているらしいのです。
しかも、その指名手配犯は、於岩さんの夫であった民谷伊右衛門さんとのこと。
「こうしちゃおれないよ!朧の旦那ァ、追跡してくんなァ!!」
「イヤ、あの…堂々と勝手なマネされると困ります。」
「タクシー乗っ取り犯のリアル逃走現場ですね、わくわく」
「わくわくしないで下さい。」
「オイッ!ごちゃごちゃうるせェぞ警察!!」
指名手配犯の伊右衛門さんが何やら叫んできました。
「俺はネコバスに乗るのが夢だったんだ!!」
…残念な人です。
残念な人がここに居ます。
「聞きしに勝るバカ男ですねぇ。あのままタクシーの金も奪って逃げる気ですよ。」
「………。」
「於岩さん?」
車内からフラフラと出てきた於岩さんは、そのままあのタクシーの方へ、民谷伊右衛門さんの方へ一直線に向かっていってしまいました。
大丈夫でしょうか。
「伊右衛門様ァァァァ!伊右衛門様ァァァァ!お側に置いて下さいましィィィィ!!」
「!!?」
伊右衛門さんが。
女性の執着は恐ろしいですからね。
私にはよくわかりませんが、恋はその人を変えてしまうと言われますからね。
恋で周りが見えなくなって、
「伊右衛門様、アンタやっぱイイ男だよォ!」
うっかり何を滑らすかわかりませんからね。
「鬼灯様の100倍!イイ男だよォ!!」
於岩さんがそう言った瞬間でした。
鬼灯様の投げた金棒が於岩さんに直撃し、そのまま伊右衛門さんを巻き込んでタクシー車内を物凄い速さで通過していったのは。
「とりあえずそいつら家庭裁判所に連れて行け。」
この後無事に民谷伊右衛門は捕まりましたとさ。
後日、於岩さんと伊右衛門の裁判が行われたそうです。
私はネコバスにも乗ってみたいけど、朧車にも乗ってみたいです。
ちなみに本当は、
「私、高い所好きなんです」
「そうなんですか。」
「それと、まあ小型も好きですが、大型の動物がとても好きなんです」
「ほう。」
「もふもふしたやつなんかはもう最高です」
「分かります。」
「だから…いつか白澤様(妖Ver.)の背中に乗って空を飛びたいんです」
「駄目です。許可しません。絶対に駄目です。許しませんよ。」
という会話を入れる予定でした。