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名前、苗字 名前。
性別、女。
勤務先、阿鼻地獄。

「うーん…」

こんな時はやはりあの二人にお聞きしましょう。
あの二人ならきっと答えてくれるはずです。
では早速、地獄の門番の下へ。


♂♀


「牛頭さん、馬頭さん」

「あら、名前ちゃんじゃない。どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがありまして」

女性トークをするならこのお二方、牛頭さん馬頭さんが適任です。
私の職場は男性の方が殆どですから、仕事中暇な時にそういった話が出来ないのです。
あ、皆さん、私が今自主休憩中なのは内緒ですよ。

「聞きたいことって?」

「答えづらいかもしれません」

「大丈夫よ。仰ってみて?」

「…阿鼻地獄勤務って女性としてアウトですか」

「「………。」」

お二人共、黙ってしまいました。
やはりアウトなんですね。
女性としてアウトなんですね。
血みどろなお姉さんは嫌いですか?
まあ…、普通に考えて嫌ですよね。
嗚呼…私、これからどうしましょう。
衆合地獄への転職を本気で考えなければならないのでしょうか。

「それにしても…どうして急に?」

「実は…この間友人に頼まれて合コンに行ったんです」

「あら、アナタ合コンに参加するタイプだったのね。」

「好んでは参加しません。恐らく人数合わせの為でしょう」

ちなみに友人というのはお香ちゃんのことです。
お香ちゃんは私が合コンのような会を苦手としているのを知っているので、あまりその手の話を持ってこないのですが、今回はどうしてもとお願いされたので参加しました。
もとより、友人の頼みは断われません。

「それで?」

「それで、自己紹介で自分の番が回ってきたんです。その時に…」


『苗字 名前です。よろしくお願いします。』

『へぇ、名前ちゃんって言うんだー』

『名前ちゃんは何処で働いてんの?』

『阿鼻地獄ですよ。』

『『『………。』』』


「一瞬にして皆さん凍りついていました。」

「まあ…阿鼻はねえ…」

「一番過激な所ですものねえ…」

「……私、女として終わってるんですね」

「落ち着いて!そこまでは言ってないわ!」

「それに勤務先が阿鼻地獄って、凄いことじゃない。出来る人材が集められた所でしょう?」

付け足せば、拷問が上手く出来る人材の集まりです。
しかし、その言葉は私の胸の奥底にしまっておきましょう。
折角お二人が励ましてくれているのですから。

でもやっぱりこの先不安です。
結婚願望などは他の女性に比べて持っていないのですが、やはり一人の鬼女としてこれは重大な問題です。
あの時の男性陣の顔を思い出す度に気分が落ち込みます。

「あれ、牛頭さんがいらっしゃらない…」

「ついさっき鬼灯様らしき方に引き摺られていかれましたわ」

「え…」

鬼灯様が此処にいらっしゃったんですか。
不覚です。
変なところを見られてしまいました。
うーん、今年は厄年ですか?

別の問題でまた頭を抱えていると、急に体が宙に浮きました。それと同時に、腹部に圧迫感が。ぐえ。内蔵的なものがリバースしそうです。
見れば馬頭さんに脇に担がれています。
どうしたのでしょう。

「馬頭さん、」

「まあ、そういうことは殿方に直接聞いてしまえばいいのよ」

「『阿鼻地獄勤務の女性を女性としてどう思いますか?』って尋ねるんですか」

「そうよ!ハッキリしますでしょう?」

マジですか。

「待ってください。男性には男性の価値観がありますので、確かに違う考えを持っているかもしれませんが…」

「じゃあ早速行きましょう」

「うーん、心の準備というものが…」

私がそう呟くと、そうですわね…と馬頭さんは、この柱の影に隠れて耳を澄ませておいて、と彼らの死角に私を残して皆さんの方へ行ってしまいました。
うーん、尋ねないという選択肢はないんですかね。
尋ねる前提なんですね。
仕方ありません、女は度胸です。ここは腹を括りましょう。
柱から少し顔を除かせれば、鬼灯様と牛頭さんが見えました。
よく見れば、白澤様や桃太郎さん、そしてシロさんもいらっしゃいます。
よりにもよって、全員私が好ましく思っている方々です。
やはり今年は厄年のようですね。
彼らの中で誰か一人でも拒絶する言葉を口にしたら、今日中に転職願いを出しましょう。そうしましょう。

「ねえ、アナタたちは阿鼻地獄勤務の女性を女性としてどう思われる?」

早速ですか。早速ですか。
今すぐ耳を塞ぎたいです。
どこかに耳栓ありませんか。
あったら下さい。今すぐ下さい。

「私は…」

ぎゃー。

「どの部署でも女性は女性だと思いますよ。」

「女の子は女の子に変わりないよねー。僕はどんなコでも大歓迎だよ。」

「どこで働いていようと、優しい人なら俺はいいと思います。」

「俺、一緒に遊んでくれるなら気にしない!」

私の周りには優しい方でいっぱいです。

あ、マズイです。ヤバイです。
鼻の奥がツンとしました。
目から何かが出そうです。
今にも何かが出そうです。
どこかにティッシュはありませんか。
あったら下さい。今すぐ下さい。

「良かったわね」

いつの間にか隣にいた牛頭さんに頭を撫でられました。蹄で、なんてこの際気にしません。
それよりもあの場に居る方々の視線が気になります。
うーわー。うーわー。
超ガン見されてます。
穴があったら飛び込みたいです。




後日、白澤様から極楽満月で働かないかと勧誘されました。



感動したヒロインのお話。
ちなみに白澤の誘いは断りました。

予定していたのよりも長文になった

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