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今日は講義があるとのことなので、私も阿鼻地獄代表として参加することになりました。
最近の獄卒が生ぬるいので、その気を引き締めようと、鬼灯様直々に指導をして頂けるとか。
わくわく。


♂♀


…なめてました。
鬼灯様の講義、なめてました。
鬼灯様が語り手をする昔話はもう聞きたくありません。
鬼灯様が語り手をする話は、例えハッピーエンドでもバッドエンドに聞こえます。
ある意味、"流石"ですね。
講義が始まり、先ずは…と、かちかち山を読み聞かせて下さったのですが、正直、昔話だからといって侮っていました。
狸に対する制裁のその飛びっぷりと言ったら凄まじいものです…。
今日から私は、うさぎどんに尊敬の眼差しを送りたいと思います。
そう決意した丁度その時、そのうさぎどんがゲストとして登場してくれました。
わーい、うさぎどんです。生うさぎどんです。
うさぎどんの本名は芥子さんというらしいです。
思っていたよりも、ずっと可愛いです。
後でサインをいただきましょう。そうしましょう。
芥子さんの拷問実演では、まずは芥子味噌の作り方を御教授して頂きました。
途中で鬼灯様の兎と薬草の豆知識が入ったりと、今回の講義の内容はどれも役に立つものばかりです。

「さて、どなたに塗り込みましょうか。」

「はい。…ここは、如飛虫堕処。嘘をついて大儲けした者が堕ちる地獄です。」

――横領、脱税、詐欺……
――現世ではそういう者を、

「"狸"親父と言いますよね〜」

鬼灯様が、やけに"狸"という言葉を強調して、そう言った時でした。
芥子さんの様子が急変したのです。
先程までの大人しそうな雰囲気はどこかへ飛んでいき、狸への恨めしさが芥子さんの全身を覆っています。
その恨めしさは、じわじわと此方まで伝わってくるほどです。
凄い…凄いオーラです。

「さあ、皆さん!スイッチの入った芥子さんをちゃんと見学して下さい!」

はいはーい!

「狸めえええええ!」

芥子さんが一直線に亡者に向かって走り出しました。

「狸めえええええ!」

あっという間に亡者に火傷を負わせ、

「この悪党があああ!」

素早く芥子味噌をその傷口に塗り込んでいます。

「お婆さんを殺した悪党があああ!」

「ええ!?違います!俺は通りすがりの文福茶釜です!」

文福茶釜さん(※胴体が茶釜の狸の妖怪)と亡者を間違えるほどの集中力。なんて素晴らしい。
ですがこのままでは文福茶釜さんが調理されてしまいそうなので、ササッと彼を回収します。

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ、その代わり少し尻尾を触らせて下さい」

「どうぞどうぞ!」

「もっふもふー」

私が茶釜さんの尻尾を堪能している間にも、芥子さんの実演は進んでいきます。
芥子さんの拷問に慈悲なんてものはありません。
彼女の視界に入った亡者は一人残らず彼女の餌食となります。

「彼女は狸という言葉に反応して、深層心理にあるストレスをブチまけてしまいます。」

「とんだ病み兎!!」

「こういうブッ飛んだ獄卒が最近少ないんですよねえ〜…」

「アンタもとんだ闇鬼神だよ!!」

そうこうしているうちに、あっという間に亡者の山が出来上がりました。
山の天辺には芥子さんが正気を取り戻してちょこんと座っています。

「素晴らしい!やはりカチカチ山の兎はこうでないと。我々も見習いましょう!」

ふむふむ、これは是非とも新卒の方々に見せてあげたいですね。
芥子さんに拍手を送って、今日の講義は終了です。





後日、芥子さんとお友達になりました。

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