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前回に引き続き、飲み会はまだ続いています。
とはいえ、鬼灯様の「今帰らないと大王の自伝語りが始まりますよ」のお言葉で、ほとんどの方が帰ってしまいました。大王様の自伝語り、皆さん、聞きたくないようです。
大王様のそれは聞いたことはありませんが、私も上司と飲みに行った時、同じ話をエンドレスで長々と聞かされましたから、気持ちは分かりますよ。
でも今回はもう少しここに居たいと思います。

「苗字さんは帰らなくていいんですか?」

「はい。このメンバーでの飲み会はなかなかありませんからね」

何だかいつもより楽しいのです。
帰るなんて、勿体無いです。
そんな感じで、少しいい気分になりながら、お酒を飲んでいたところでした。
慌てた様子で一人の獄卒が現れたかと思えば、叫喚地獄――酒乱の堕ちる地獄のことなのですが、そこで問題が起きたようで、鬼灯様はその処理のため席を立たれてしまいました。
叫喚地獄の亡者はタチが悪いので、危険だから手伝わなくていい、と鬼灯様は仰っていたのですが…。

「…そう言われると行きたくなるよね。」

好奇心旺盛なのは何よりですが、私は行きませんよ。


♂♀


結局、白澤様に連れられて来てしまいました。叫喚地獄。
凄い亡者の数です。しかも全員酔っています。人の群れに流されそうです。いえ、流されていますね。困りましたね、白澤様と桃太郎さんを見失ってしまいました。ここで迷子は嫌です。
私は身長があまり高い方ではないので、近くの岩場に登って高いところから皆さんを探します。これだけ人数がいても、鬼灯様と白澤様はとても背が高いので、きっと見つけられるでしょう。あ、いました。思ったより早く見つかりました。
早速彼らの元へ、群衆を掻き分けながら向かいます。そして見えてきた鬼灯様の背にすがるように飛び付きました。

「お母さんッ」

「誰がお母さんですか。…あなたも来たんですね。危険だと言ったでしょう。」

「すみません。つい気になってしまって…。ところで、先程から亡者達にやたらとボディータッチをされているのですが…ああ、それよりも八岐大蛇さんは…」

「そこは女性として流してはいけませんよ。」

場所を移動しましょうか、という鬼灯様の提案に、素直に頷きます。また迷子になると困るので、袖の裾を少し握らせてもらいました。
亡者の少ない場所に移動して頂きながら、状況も説明して頂きました。つまりは、八岐大蛇さんが持ち込んだ八塩折の酒という美酒を亡者が奪ってどんちゃん騒ぎをしているそうです。八塩折といえば八岐大蛇さんが倒されたときに使われたお酒…私も飲んでみたいです。
今は取り敢えず、八岐大蛇さんに八塩折の酒を取り返させているのですが、亡者のガードはなかなか固いようです。八岐大蛇さん、頑張ってください。
小さく声援を送っていたら、白澤様と桃太郎さんが隠れている岩影に着きました。

「あなたも桃太郎さんと一緒にここにいなさい。桃太郎さんと。」

「オイ、なんで桃タロー君のこと二回言ったんだよ。」

「大事なことなので二回言いました。」

「たおたろーくんって誰ですか」

「俺のことだそうです。」

あ、八岐大蛇さんが帰ってきました。おかえりなさい。
でもまだお酒は亡者達の元にあります。

「ダメだ、取り戻せません。すごい死守してます。」

「……いえ、この状況では取り戻す云々ではありません。かえって騒ぎが大きくなってしまう。」

岩場から様子を伺います。
鬼灯様には何か考えがあるようですね。
私にはさっぱり分かりません。

「……どうすんだろ」

「……どうするのでしょう」

「ふふん、こういう時は押してダメなら引いてみろってことだろ?単純な話」


この後、叫喚地獄は、白澤様の協力の下、「嫌になるまで飲ませ続ける地獄」となり、亡者達による騒動は治まりました。人は、どんな極楽も義務になると苦になるとか。白澤様の協力というのは、白澤様の私有地にある養老の滝のお酒をここで使用させていただいているためです。

逆転の発想、素晴らしいです。
流石は鬼灯様です。
こんなに大きな騒動を解決してしまうなんて、本当に凄い方です。

「やっぱり、私、鬼灯様のこと好きです」

「…はい?」

「大好きです」

「…急ですね」

「いいえ、前からです」

「そうでしたか…」

「はい。これからもずっと尊敬してます」

「………それはどうも。」







後日、八岐大蛇さんが八塩折の酒を分けてくれました。



最後無理矢理終わらせました。
「好き」=「尊敬」な、ずれてるヒロイン。
それを悟って、ちょっとへこむ鬼灯様。
それを見て、ウケる神獣。
そんな描写も書きたかったけど力尽きた私。
八塩折の酒は、おいしくいただきました。

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