book

□20
1ページ/1ページ




閻魔殿へお戻りになられた鬼灯様とばったり出くわしました。

「お帰りなさい、鬼灯様。どちらへ行ってらしたんですか」

「烏天狗警察です。義経公に用事がありまして」

義経公とは、皆さんご存知のあの源義経のことで、現在は地獄民の違法行為を取り締まる烏天狗警察という機関で指揮官をなさっています。
とても綺麗な顔立ちの方です。その中性的な外見は、宣伝ポスターなどに採用される程。幅広い女性層から「可愛らしい」と、人気があります。
ですが、彼は男らしくありたいようで、以前体の鍛え方を聞かれました。
私は今のままで十分素敵だと思うのですが、コンプレックスは人それぞれのようです。
そう言えば、最近は笛からアル何とかに変えて腹筋を鍛えてると言っていましたね。

「義経君、アル何とか、吹いていましたか」

「アルプホルンです。吹いていましたよ。……義経"君"って…」

「気軽に呼んで下さいと言われたので」

ちなみに義経君には名前さんと呼ばれています。
嗚呼…、そう言えば、皆さんからはちゃんと名前で呼ばれていますが、鬼灯様からは名字で呼ばれていますね。
もしかして…、鬼灯様、私の名前知らなのでしょうか。
長い間地獄に勤めているからといって自惚れていました。
そうですよね、私はただの一獄卒に過ぎません。現代まで名を轟かす桃太郎さんや、衆合地獄官職のお香ちゃんや、一応神獣である白澤様とは違うのです。

「鬼灯様」

「何です?」

「私の名前は、苗字名前です」

「…なに改めて自己紹介してるんですか。それくらい知ってますよ。」

呆れたような顔で、そう言われました。
知ってたんですか。
知っていてくれてたんですか。
なんだ、へこんだりして損しました。
でも、この自然と込み上げてくる嬉しさでプラマイゼロです。いいえ、これはゼロを通り越してプラスですかね。

「知らないのかと思いました」

「知ってますよ。…知らないわけないでしょう」

「ありがとうございます」

何だか、くすぐったいですね。
だんだんと口元が緩んでいくのが自分でも分かります。
何故でしょうか。
何故でしょうね。
きっと、とても、嬉しいのです。

「それにしても、何故急に?」

「鬼灯様が、私のことを『苗字さん』としか呼ばないので」

「…名前で呼んだ方が良いですか?」

「うーん、そうですね…」

実を言うと、鬼灯様が私のことを名字で呼ぶのには、少し特別な感じがしたので、イヤではないのです。
寧ろ気に入っていました。
ですが、やはり…、

「私、その方が嬉しいです」

「ではそうします」

「名字呼びも嫌ではないのですが…、やはり名前で呼ばれると親近感が湧きますから」

「そうですね」

「それに連載20話目になってもまだ名字呼びなのは些か…」

「お口ミッフィー!」

「金棒はやめ…あいたっ!」



何はともあれ、今日から鬼灯様に名前で呼ばれることになりました。


<
20話目にしてついに…いや、20話でもまだ名字呼びだわ。次からだわ。
私、もう20話も書いたのか…。

「お口ミッフィー」=「お口チャック」=「黙れ」
お口ミッフィー!(・×・)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ