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閻魔殿の城壁が風化しているため、新しくするそうです。
大王様がそう仰っていました。
絵が上手な獄卒を見つけたので、その方に一任して頂いたそうです。
一体どなたでしょうか。私の知っている方でしょうか。

「もうそろそろ完成するんじゃないかな」

「気になります」

「帰りに見に行ってきたら?」

「はい、そうします」

大王様の言葉に頷いて、早速その場へ向かいます。
あ、見えてきました。見慣れた三人の姿と彼らの向こう側にある鮮やかな色をした城壁が。

「これは凄いですね」

「あ、名前姉さん!」

誰よりも先に私に気が付いた茄子くんが、白いフワフワした髪を揺らしながら駆け寄ってきました。
彼を見ると、いつも綿菓子が食べたくなってくるんですよね。
頭の中が綿菓子で埋まっていくなか、茄子くんが筆を握っているのを見て、あることに気が付きました。

「もしかして茄子くんが描いたんですか」

「そう!俺が描いたんだ!」

茄子くんが、その両手の中にある筆を高く掲げて誇らしげにそう言いました。
これは予想外です。茄子くん、絵がお上手だったんですね。
何はともあれ、お疲れ様です。
今日は飴を多目にあげましょう。

「ちょうど今完成したんだー。唐瓜と鬼灯様が手伝ってくれたんだよ」

「私もお手伝いしたかったです」

茄子くんに手を引かれながら、壁画のもとへと移動します。
間近で見ると、更に迫力がありますね。
特にこの真ん中の、太陽ですかね、それの何とも言えない威圧感と立体感が凄いです。
立体感というか、そこだけ壁が盛り上がっている気がするのですが、気のせいでしょうか。

「うーん」

「それ、アイアン天照って言うんだー。俺のお気に入り!これね、凄いんだよ」

「これですか?」

先程から気になっていた太陽、茄子くん曰くアイアン天照を指で差しながら尋ねます。
そんな私に、嬉しそうに首を縦に振ってみせた茄子くん。しかし、その後直ぐに、その表情は一変しました。茄子くんの向こう側にいる唐瓜くんが、「あ…」と、思わずと言った声をもらします。
二人の視線は私から外れ、私が今指を指しているアイアン天照に向かっています。
何でしょうかと、首を傾げながらそちらに視線を戻せば、口を大きく開けて私の指を今まさに食い千切ろうとしているアイアン天照の姿が視界一杯に見えました。
手を引っ込める余裕を与える間もなく、その陳列した鋭い牙が下ろされます。
反射的に、襲ってくるであろう痛みに体を強張らせました。
しかし、ガチンと合わさった歯の間に私の手が挟まれる事態には至りませんでした。
鬼灯様が寸前のところで、後ろへ引いて下さったのです。

「ひゅーひゅー、鬼灯様かっこいです」

「なにふざけているんですか。…怪我は?」

「大丈夫です。ありがとうございました」

「気を付けてください」

「はい」

ちょっぴりドキッとしたのは内緒です。

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