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□色の混ざった空/ここ様より
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※白鬼♀



ここ最近僕が出掛けっぱなしのせいで鬼灯と予定が合わなかったけれど、今日は久しぶりにアイツの部屋で食事をしていた。特に会話する事もなく2人静かに夕餉を食していると、ブーブーと僕の携帯のバイブが鳴り、フォルダを開けば妓楼を営む妲己ちゃんからメールがきていた。目の前に座るアイツをチラリと見て、様子を窺う。アイツはカンが良いから面倒なことにならないよう、気をつけなくてはならない。

しかし、アイツは僕のことなど気にせず、黙々と食事を続けていた。そのことに僕は胸をなで下ろし、本文を読み進める。どうやら夜のお誘いメールのようで、僕はニヤニヤしながら「今すぐ行くよ」と打ち、送信ボタンを押した。大方、夜の予約を入れていた客が今日になってドタキャンしたのだろう。その客の埋め合わせとして僕は彼女に呼ばれたことになるが、気持ちいいことは確実なので僕はそれでも構わなかった。今夜は何をしようかな、などと欲に駆られていた時、目の前に座るアイツが、ゴホンッと一つ咳払いをした。

「白澤さん、食事中に携帯をいじるのは行儀が悪いですよ」

指を指しながら注意され、僕は「ごめんね」と苦笑しながら返事をする。手中でケータイのバイブがまた鳴った。内容は『待っているわ』の一文だが、僕は内心ガッツポーズをする。こういうお誘い系のメールは同時に何人にも送っているのが常で、彼女と夜を共にできるのは早い者勝ちなのだ。

ケータイをポケットにしまい椅子から立ち上がる。出かける準備をすれば、アイツが背中越しに「また仕事ですか?」と声をかけてきた。

「うん。今店に来ているんだ。電話越しでも分かるくらい具合が悪そうだったから、早く行ってあげないと」

準備が整い振り返ると、アイツは「そうですか」と呟いた。その視線は僕の食べかけの食事を捉えている。

「白澤さん、地獄の門まで送りますよ」

彼女はそう言って立ち上がるが、僕はそれをすぐに否定した。
「あー、いいよ、大丈夫。お前仕事が忙しくて、あまり寝てないんだろう?無理は良くないし、すぐそこの扉までで十分だよ」

このまま衆合地獄へ行くから、コイツにバレたら面倒くさいしね、と心の中で付け足す。

アイツは無表情のまま「分かりました」と頷き、部屋の鍵を握って外へ出た。やっぱり女の子って用心深いなぁ、とどうでも良いことを考えながら僕も後に続く。

業務員用扉にたどり着き、適当に別れを告げて妲己ちゃんのもとへ歩き出す。この後のことを考えると楽しくって仕方がなく、僕は跳ねるような駆け足で、彼女が待つ妓楼へと向かった。
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