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簡易地獄では、全ての裁判を終え、大した罪はなしとされた亡者が、一回だけ舌を抜かれる罰を受けます。その後は天国逝きまたは現世へ転生されますが、罰を嫌がって逃げ出す亡者もいます。勿論そんなことをすれば即刻地獄逝きなので、どんなに長蛇の列でも、亡者達はみんな大人しく順番を待っています。そう、長蛇の列です。簡易地獄でのお勤めは忙しいというより、終わりが見えないのです。そこで、助っ人として駆り出された私の今日のお仕事は、亡者の舌を抜くことと、逃げ出した亡者を捕まえることです。
「わざわざ阿鼻から助かるよ、名前ちゃん。今日は十王の晩餐会の準備で忙しくて…、これ良かったら食べてね」
「わーい、ありがとうございます」
簡易勤務の方が差し入れを持ってきてくださいました。豆大福です。もっちもちです。とても美味しいです。
「ヒィィ!この鬼、大福食いながら舌抜いて…っっっ!!」
「はい、次の方どうぞでーす」
甘いものを食べると仕事がはかどります。ところで、十王の晩餐会と先程仰ってましたね。十王とは裁判官たちのことです。亡者たちは閻魔大王様と会う前に、他九名の裁判官に裁かれます。
ちょうど休憩に入るので、晩餐会の様子を見に行きましょう。
「名前さん」
「あ、鬼灯様。おつかれさまです」
鬼灯様にお会いしました。高く積み重ねられたお皿を持っています。閻魔様達がいらっしゃるテーブルから下げてきたのでしょう。
「お持ちしましょうか」
「いえ、大丈夫です。それより料理を運ぶのを手伝っていただけますか」
「朝飯前です」
鬼灯様のお願いです。断るわけがありません。
料理を運ぶついでに十王様たちに挨拶しておきましょう。
「十王様、ちーっすです」
「名前ちゃん、地獄のトップに対してフレンドリー過ぎない?」
大王様にツッコミを入れていただきました。さすが普段から鬼灯様に鍛えられているだけはあります。
「大王様には書類を届ける際によくお会いしますが、他の方とお会いする機会がなかなか無いのでつい」
「公私混同はおやめなさい」
鬼灯様が後頭部を棍棒の先端でぐりぐりしてきます。微妙に棘が刺さって痛いです。すると、五道転輪王様が助け舟を出して下さいました。
「良いのです、鬼灯さん。私も名前さんにお会いできて嬉しいので」
「水臭いですよ、名前さん」
「そうですよ。連絡を下さればいつでもお会いしますのに」
続いて、宋帝王様と五官王様がそう仰ってくれました。皆さん、心が広いです。
「では、後で連絡しますね」
「え、名前ちゃん、みんなの連絡先知ってるの?」
「はい、みんなで美味しいお店教え合ったりしてます」
「交友関係広いんだね、きみ。今度、僕にもそのお店教えてよ」
「わかりました」
お運びさんの仕事に戻ります。ちなみに、この料理は亡者たちへの大量のお供え物から作ったそうです。ポテトサラダはじゃ○りこから作ったそうですよ。しかも鬼灯様の手作りだとか。
「鬼灯様はいいお嫁さんになれますね」
「馬鹿なこと言ってないで働いてください」
「はいはーい」
後日、鬼灯様にじゃが○こポテトサラダの作り方を教えてもらいました。