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□キス魔
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菊田と恋人になって知ったことがある。


それは“キス魔”だということ。


プライベートなら未だしも、仕事中でも二人きりになるとふいをつかれることがあるくらいで。


「菊田」 
事前に気付き、近づいてくる菊田を止めるには“田”をはっきりと発音するのが良いと最近気づいた。その呼び方をすると待てを喰らった犬みたいにピタッと一瞬止まるのだ。


「駄目よ。」
「…はい。」
仕事中は大体これで押さえられる。
…普段の菊田であれば。


しかし、井岡や國奥先生が絡むと厄介なことにこれが全く効力を失くしてしまう。
「んっ…ゃ!」
「黙って下さい。」
この二人と話しているところを目撃された時はなにを言っても聞く耳持たず。無理やり何度も角度を変えながら、舌をねじ込んできた。しかも調書室で。

いつ見つかるかひやひやもので、制御する方法を常に模索しているが、未だ見つけられないでいるのが現状である。



「きくたって…キス魔…なの?」
仕事が終わりソファの上でわたしを組敷いて、まさにその行為を実行しようとしている男に向かって尋ねる。

「主任が可愛すぎて我慢できなくなるんです」
と言いながらちゅっと軽いキスが瞼や頬に落とされる。

「いや…ですか?」
「嫌。…んん…」
言葉を遮るように私の唇を菊田の唇が覆う。
軽いものから段々と深いものへ、厭らしい水音が部屋中に響き渡る。


「キスしてるときの主任の顔…すごく好きです…」
「んぁ…きく、たぁ…」
「玲子…」
名前を呼ばれるとぞくりと甘い痺れが背筋に走る。自然と自分から菊田の首に腕を回し唇を引き寄せていた。

「キス…いやなんじゃないんですか?」
「……いじわる」
数センチ先の菊田の唇に自分からそっと口付ける。と同時に菊田の腑抜けた私にしか見せない笑顔が目に入る。
その笑顔にぎゅっと胸が締め付けられ、気がつけば自分から菊田の唇を求めていた。


「…仕事中は…自重してね。」
「出来る限りは。」


今夜も眠れない夜が始まる。

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