。。忍(長編)。。

□先たまの秘密をあばけ!!
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校庭の青葉を揺らしながら、風が教室の中を通り抜ける。
少し緊張した面持ちのくの一が、黒板の前に立っていた。

「教育実習生の 山田ゆり です。今日からよろしくお願いします」

校庭から1年は組の教室に場所を移して、教育実習生の山田ゆりの自己紹介をしているところだった。
生徒たちからの期待の眼差しを向けられ、ゆりは思わずたじろいだ。

「山田せんせ〜!!」

「「ん??」」

どちらも山田のため、2人で返事をする。

「先生!!」

元気よく手を挙げたのは、学級委員の庄左ヱ門だった。

「なんだ?庄左ヱ門」

山田伝蔵は、あごひげを左手の親指と人差し指で触りながら庄左ヱ門を見た。

「山田先生が2人いるわけですよね…
お二人のこと、どうお呼びすればいいでしょうか?」

少し困惑気味の表情を浮かべた庄左ヱ門の質問に、は組全員が確かに…と、うんうん頷いた。
2人の山田先生も顔を見合わせ、うーんと唸ったが、何かをひらめき、ゆりが手を挙げた。

「はいは〜い!!わかった!!
じゃぁ…私のことは下の名前で呼んで〜」

「あ、なるほど。それなら山田伝蔵先生と区別できますね」

庄左ヱ門はじめ、は組全員はなるほどというような顔をした。
ふふんと鼻をならし、ちょっと得意げにゆりは生徒たちを見た。

「でしょ?ってことで下の名前で呼ぶ!!決まり!!」

呼び方も決まったところで、さっそく生徒たちの質問合戦が始まった。

「好きな食べ物はなんですか〜?」
「変装が得意なんですか?」
「ナメクジは好きですか〜?」
「はいは〜い!今いくつですか?」

同時にしゃべられたんで、誰が何を質問したのか全く分からなかった。
ゆりは少し困って、人差し指で頭を掻いた。

「うーん…いっぺんに言われちゃわかんないから、ひとりずつ質問してくれる?」

「ナメクジは好きですか?」

「は!?それ一番知りたい情報か!?
あまり好きではないけど…ってそんな泣かないでよ」

ハイテンポなノリツッコミに、は組は口をぽかんと開けていた。
ナメクジの質問をした喜三太だけは、ぐすんと目に涙を浮かべていたが…
少し心が痛んだが、これから接していくのだしありのままの自分を見せようとゆいは思った。
心の整理をしていると、またすぐ次の質問が飛びこんできた。

「今いくつですか?」

「くの一にその質問するの?命知らずだね〜…どうしても知りたい?」

ゆりはにっこりと笑ったが、目だけは笑っていなかった。
もちろん、は組の生徒は一人残らず固まっていた。

「おい、生徒を怖がらすな」

山田伝蔵は呆れた顔をしながら、ゆりの頭をぺしっと叩いた。
反射的にむぅっと頬を膨らませながら、ゆりは少し反抗的な目でにらんだ。

「ちょっとしたジョークですぅー。それにすぐばれちゃうと思いますし…」

少し痛かったのか、頭をさすりながら喋っている様子は悪戯をして怒られた子供のようだった。
まだ幼さが残るこいつが、教生など務まるのだろうか…山田伝蔵は心配だった。
質問攻めがまだまだ続きそうなところで、ようやく授業の終わりの鐘が鳴った。



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