徒然ティータイム


□ちょっと照れる様な単純なきもち
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お前が聞いたら何て言うんだろう、って最近考えるんだ。この感情の名前を、お前なら教えてくれそうな気がするんだが。
なぁだから、いいよな。許してくれるかな。
お前に、紹介したい奴ができたんだ。

ヒロへ
──ゼロより

「零さん」
諒が玄関から室内を覗き込む。いつも通りの仏頂面だが、心なしか浮き足立っている様にも見えた。相手が俺だからなのか、などと考えて、我ながら気恥ずかしい思考回路に慌てて打ち切る。降谷は書き終えた便箋を封筒に入れて立ち上がった。
「向こうで昼飯食うんだったらそろそろ出ようぜ。花束は?」
「ああ、向こうに置いてる」
崩れない様にと隣室へ避難させておいた花束を取りに行く。勿忘草、ミモザ、ツルニチニチソウ──全てあいつの為の花だ。綺麗に彩られた花束の包装紙の隙間に封筒を忍ばせる。ハロは昨日から風見に預かって貰ってるから問題ない。
振り返ると、諒はもう玄関にはいなかった。真実無人となった家の戸締りをして表へ出れば、助手席から手を伸ばしてミラーの角度や座席の位置を確認している様子に腰を当てて覗き込む。
「こら学生。良い度胸だな」
「あんたの前で無免で走るとか命知らずなことはしないっての」
それに俺、このじゃじゃ馬乗りこなせる気しないし、と降参するかのように諸手を挙げて、大人しくシートへひょろりと長い体を窮屈そうに収めた。
「当たり前だ。俺の自慢の相棒をそうやすやすと乗りこなされてたまるか」
ふん、と少し自慢げに鼻息を付いて運転席のドアを開ける。……こう何回も『降谷零のプライベート』で助手席に乗せるのはお前だけだぞ、との言葉は音にならなかったが。
運転席に乗り込んだ降谷は、諒の膝の上に花束を預けた。華やか、と言うよりも可愛らしい花を集めて作られた花束は、意外と可愛いもの好きの諒にある意味合っているのかもしれない。諒は封筒に気付いたようだったが、そっと位置を直すために手を添えただけで何も言わなかった。
「出るぞ。シートベルトしてくれ」
今日も宜しく、とクラクションを鳴らさない程度にハンドルを軽く叩き、ギアを変える。エンジンの低い響きと、タイヤが砂利を踏む音も気分を高めてくれる。降谷の気分は晴れやかだった。
「……晴れたな」
「ああ」
いい天気だ、とただそれだけなのに諒は嬉しそうに目を細める。余り表情の変わらない彼が目を細めると威圧しているようにも見えるが、降谷には機嫌の良し悪しが手に取るように分かった。頬杖を突いて外を眺めていた諒が、一言断りを入れてウィンドウを開ける。外からの空気に花の香りが混じって、車内に甘く清純な風が吹いた。
そう急く道中でもない。降谷はゆっくりとアクセルを踏み込んでハンドルを切った。

なぁヒロ、やっぱり俺はお前に聞きたいよ、何でこんなに俺まで嬉しくなるんだろうな。隣でこいつが笑ってるだけで、俺のことを嬉しそうな目で見てくるってだけで。
──ゼロ。
あいつの声が聞こえる気がする。柔らかな花の香りに乗って。
──それはな、ゼロ。きっと愛ってやつだよ。



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