短編集

□君という光
1ページ/1ページ


空が燃えている。
そう錯覚するほどに焼け付くような朝陽に照らされた雲が光っていた。私は、なんだか胸がきゅっとなって、懐かしくなって、電話をかけた。アドレス帳を開かなくたって指が覚えたその番号には、6回目のコールで繋がった。

──…はい。
──景光。
──なんだ、お前か。どうした?

眠そうな、ちょっとかすれた声。起こしてしまっただろうか。申し訳なさもありつつ、名前を呼んだ声だけで私だと分かってくれたのはちょっと嬉しい。

──あのね、空が綺麗だったから。
──空……?
──綺麗な朝焼けだったよ。なんか、景光みたいで、景光のこと思い出してたら電話かけてた。……寝てたよね、ごめんね起こして。

言いたいことだけ言ってしまうと、不意に電話越しに笑い声が漏れだした。

──なんで笑うの。
──悪い。いや、なんか、朝からお前が俺のこと考えてくれてるのがさ、嬉しくて。
──しょうがないじゃん、好きだもん。
──俺もお前のそういうとこ好き。

正直、景光とはしばらく会えていないけれど、こうやって話をして、言葉を聞くだけで心が満たされるような気がする。そしてまた私の心は夜明けを迎えるのだ。私の長い夜に光を与えてくれたあなたの名を纏って、私は今日を生き抜く。

──景光。
──ん?
──だいすき。



End

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ