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□落し物には福がある
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最近めっきりついてなかった。

何故か目覚まし時計が鳴らず、いつもの電車に乗り遅れて危うく遅刻しそうになるし、苦手な数学ではぼんやりしてる時に限って難しい問題を当てられる。廊下を歩けば、授業で使うのだろう資料や、やけに重たそうな道具を持った先生に呼び止められ。他にも、欲しかった小説は私の手前で全て売り切れ、何もないところで転びかけ、車に水をかけられなどなど。一つ一つはそこまで大事でもないのだけど、あまりに頻度が多いのでだんだんと悲しくなってくる。

そんなプチ不幸続きだった私なのに、今日に限っては恐ろしいくらいに上手く事が進んでいた。




×・×・×・×・




普段通りの日曜日。目覚めは良好。出されていた課題も、思いのほか簡単で昨日のうちに終わってしまった。時間にも余裕があり買い物にでも行こうと家を出ると、ちょうど駅のホームに着いた時に電車が到着した。休日の割には混み合ってる様子もなく、ゆらりゆらりと優雅に目的地に到着。思いつくままに歩いていると、表通りから少し外れたところに、まさしく自分好みな本屋を見つけふらりと立ち寄った。


『え、これってもしかして廃版になったはずじゃないですか店主さん!』
「お!姉ちゃんわかんのかい?たまたま倉庫の入れ替えで出てきたんだがなーちょいと汚れちまって…姉ちゃん、それ持ってってくれんならおまけしてやんよ。」
『ホントですか?ありがとうございまーす!』

人のいい店主さんと仲良くなり、そして廃版となってしまい探すのが難しかった本まで見つかった。最近の出来事とは打って変わって幸運に恵まれていたため、浮かれ気分だったのかもしれない。しかし、私のプチ不幸はまだまだ続いていたのだ。





×・×・×・×・





『…やっぱりないなー』

本屋での買い物を終え、さて帰ろうかと駅へと向かっているとき、携帯に付けていたはずのストラップがないことに気づいた。そのストラップは親友とお揃いにしていた大切なものだ。本屋で帰りの電車を確認するときにはちゃんと付いていたのを確認していたから、多分この道のどこかに落ちているはず。けれどそこまで大きなものではないし、人通りも少ないとはいえ車だって通れるほどの道だ。探すのは至難の業だろう。

『お気に入りなのに…あーあ。』

何度か思い当たる所をうろうろとしてみたけれど、やはり見つからない。後ろ髪をひかれつつも、電車の時間も迫ってきて泣く泣く諦めようとしたとき。



「…ナマエか?こんなところで何をしている。」
『あー…柳君。』

これまた偶然に同じクラスの柳蓮二君と出くわした。柳君とは親友が男テニのマネージャーをしている関係で関わることが多い。なんでも行きつけの本屋さんの帰り、今日私が訪れた本屋さんの常連さんらしい。彼も同じく帰宅のため駅へと向かっている途中らしく、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いている私を不思議に思い声をかけたとのことだった。




『大したことじゃないんだけど…携帯のストラップ落としちゃってさー』
「ストラップ…ちなみにどのようなものだ?」
『えーっと、紐のところが黒で、鈴が付いてて、やけ「やけにリアルなウサギのモチーフ」ってええっ!?』
「やはりそうか。」
『ちょ、ど、何処で見つけたの!?』

私がストラップの形を説明していると、柳君はポケットから私が今まで探していたものをするりと取り出してみせた。




「本屋の店主に渡された。学生証が見えて、同じ学校だとわかったらしい。」
『本屋さんにあったんだ…それじゃあいくら探してもないはずだよね。』
「俺も何処かで見たことがある気がしたからな。おかげで予測がついた。」
『うん。ありがとうね柳君。』

沈んでいた気分も持ち直し、少し予定は狂ってしまったけれどあまり遅くならずに電車に乗ることができた。流石に帰りはそこそこに混みあっていたため、柳君と二人して入り口の方に立っていた。そこでふと疑問が浮かんだ。




『予測がついた、って言ってたけど、私ストラップなんか見せたことあったっけ?ほとんど学校では使わないから。』
「ああ。マネージャーがそれと色違いのストラップを持っていたから聞いてみたことがある。親友とお揃いなんだと自慢された。その時に何度も見せられたので覚えていた。」
『そうなんだ。…でも、ふふっ、柳君に自慢しても仕方ないのにねっ!そのおかげで見つけてもらえたんだけど。そんなに嬉しかったのかな。』
「…いや、一応は情報提供と言う名の嫌がらせだろう。目が輝いていた。」

その時の情景を思い出したのか、柳君は苦い顔をして遠くを見つめていた。きっと素晴らしくうざったかったのだろう。

『いくら柳君がデータマン?…だとしても、そんな情報得にもならないでしょ。』
「いや、…大変役に立つ情報だが?」
『えー、そんなのが?』
「当たり前だ。何と言っても…」

そう言いながら、柳君は、私にしか声の届かないところまで近づく。普段とは違う彼との距離感に自然と胸が高鳴る。どことなくソワソワとしている、そんな私の心情を察しているのかどうなのか、柳君はふっと微笑み。耳元でこう告げた。





゛好きな人のことなら、どんな情報だって知りたいと思うだろう?゛



赤くなる私に、涼しげな顔をしてとなりに並ぶ柳君。意味深な発言に私の脳内はブレイクしているんだ。とりあえず今は、赤くなるのは夕日のせいだ、なんてベタなごまかしをしてみる。






×・×・×・×・
柳君と女の子。
そして青春を何処かに忘れてきた私←
(2013-10-27)

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