So Fine 2

□47話
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彼らと過ごす最後の夜







仕事帰りにスーパーに寄り、大量に買い込んだ食材を両手に下げて帰る。



これが最後だと思うと、食べさせてあげたいものが次から次へと頭に浮かび、
気付けば6人では食べきれない量の夕食になっていた。

それでもまだ、食べさせてあげたいものは他にもたくさんあった。





外もすっかり暗くなったころ、
後片付けの洗い物をしているところに、勢いよく玄関が開く音が響いた。

それに続いて、廊下をバタバタと駆けてくる足音が近付く。


目に浮かぶその姿に吹き出しそうになるのを堪え、
泡の付いた手をシンクから出さないよう、顔だけドアの方に振り向ける。




ドアのすぐ向こうには、私をドキドキさせる大好きな彼がいる。


笑顔が可愛くて、たまに聞き取りにくいほどの早口で、
不器用で、大雑把で、家の中をバタバタとよく走る

愛おしくてしょうがない彼がすぐそこにいる。






勢いよく開いたドアに、
キャップを深く被り、見える口元に可愛い笑みを浮かべたテミンが現れた。

サッとキャップを取ると、額に滲んだ汗が光っていた。


ダダダッと走り、テーブルにキャップを投げ置くと、真っ直ぐこっちに向かって走ってくる。

靴下で滑り込んで、私にぶつかりそうなギリギリの所で止まる。


テミン「ご褒美はっ?!」

目をキラキラ輝かせた顔を近付てくる。


その様子が可笑しくて嬉しくて、堪えきれずにキッチンに向き返って笑っている私に、
テミンはどんどん詰め寄ってくる。

テミン「ねぇ、ご褒美は〜?」


笑って顔を逸らし、今の状況を楽しみ焦らす私を、
横から覗き込みながら、テミンは何度も同じ言葉を繰り返した。




なかなか返事をしないことに痺れをきらしたテミンは、
私のお腹をギューッと後ろから抱きしめてきた。


くっつけた体を横に揺らしながら、肩の上に顎をのせ、嬉しそうな顔で
「ねぇ、ご褒美は〜?」を繰り返す。




名前「アハハハ!も〜、分かった分かった。
ちょっと待って。とりあえず、手洗わせて。」


それを聞いてすぐさま水道の水を出したテミンは、私の両手首を掴んで、ニコニコした顔を横から出す。

テミンに預けた手が交互に動かされる。


泡が全て流れると、
手首を持っていたテミンの手は先に伸び、私の手を包むように自分の手も一緒に洗いだした。


わざと蛇口に手を付け、水を飛び散らせてくるテミンに、キャーキャー騒ぎながら体を曲げ逃げる。

楽しそうに、逃げられないよう手を強く握り、私の後ろに隠れて水から逃げるテミンは意地悪だ。



思ったより被害の少ないシャツをタオルで軽く拭く。

そしてそのタオルの中で、お互いの手を拭き合うように、二人の手が絡んでいた。





拭き終わったタオルを戻し、体をテミンの方に向き直し笑顔を向ける。


テミンの腕が広がったかと思うと、
ゆっくりと覆いかぶさるように抱きしめられた。

勢いで後ろによろけ、手と腰をシンクに当てて体を支えて受け止める。


体を締め付けるテミンの力が強くなっていく。






さっきまでの甘い時間が、
より甘く、濃さを増す。






押し倒されそうなほど寄りかかるテミンの体に、反っていく背中が次第に息を浅くさせる。


名前「……テミン…苦しい」


すぐさまテミンは体を引き、背中にまわした手で私を引き寄せた。


テミン「ご、ごめん…大丈夫?」


起こした体が楽になると、テミンに笑顔を向け頷いた。

テミンのホッとした笑顔が浮かんだかと思うと、
優しく抱きしめられ、再び体は埋まる。


テミンの首元からは甘い香りが漂う。



私の頭に触れるテミンの頬が、甘えるように擦り寄っている。

そしてチュっと音を立て、何度も唇が頭に触れる。

キスを落とされていく度に、そこから熱が広がり、思考も飛ばされていく。



宙を漂うような気分で、私はテミンの背中に手を回した。

その手は、背中に背負われたままのカバンに当たる。


その様子を感じとったテミンは、少し体を引いて離すと、
私に視線を向けたまま、片腕ずつ肩ひもを抜き、その場にカバンを落とした。



鈍い音が足下に響く。





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