So Fine 2

□53話
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  キーside



そんな……


だって、楽しみにしてるって…。

僕が買って帰る服も靴もカバンも、…楽しみにしてるって。。
そう言ったのに……!


嘘だ……


勝手に出て行くなんて…嘘だ!!!







いてもたっても居られず、
気付いたら、椅子から立ち上がり、ヌナの部屋に走っていた。


ドアノブに手を掛けた瞬間、一瞬、戸惑いが紛れ込む。


そこには見たくないものがあるんじゃないか。

現実を目の当たりにしたところで、何が出来る?


それでも、僕は確かめたかった。

この目で見るまで、そう簡単に信じられる話じゃない。



思いっきり、ドアを引き開ける。






「嘘だ……」




がらんとした部屋の中には、綺麗に整えられたベットが、人の気配を全て消し去っていた。


すぐさまポケットから携帯を取り出し、ヌナに電話をかける。


電源が切られているのか、一向に繋がる様子はない。





足の力が抜けると、僕は膝から崩れ落ち、その場に座り込んでしまった。




ふわりとカーテンが揺れ、小さく開いていた窓から、心地良い風と共に、
懐かしい匂いが鼻先に伝わった。


それは、辛うじて持ちこたえていた最後の制御を、
いとも簡単に崩していく。




僕は床に手をつき頭をもたげる。

ひとつ、ふたつ、と滴る涙が手の甲に海をつくる。






この部屋にはヌナがいた。


僕の大好きなヌナの香りが残ったこの部屋から吹き抜ける風が、僕を包み込む。



「ヌナ…詰めが甘いよ」


どんなに痕跡を消したつもりでも、綺麗さっぱり片付けていても、
ヌナがいた証がちゃんと残ってる。




悲しくて悔しくて、ヌナがとてつもなく愛おしくて、
笑えてくる。



指で涙を拭い、顔を上げた。



肝心なところで詰めが甘くて、
不器用で泣き虫で、辛いことを口に出さないで一人で悩んで抱え込むような人だから
黙って居なくなっちゃうのも、よく考えれば納得がいく。




「フー」っと、ひとつ息を吐き出し、立ち上がる。


振り返ると、心配そうな目でこっちを見ているジョンヒョニヒョンとミノが目に入った。

オニュヒョンは俯いてテーブルに乗せた自分の手を睨んでいる。


キー「ははっ 部屋空っぽだわ。
ほんと何なんだろうね、あの人。。
……何だったんだろうね。」


みんなの座るテーブルに戻る。



ミノ「洗濯機…みたいな?」

キー「洗濯機??」

ミノ「…騒ぐだけ騒いで、かき回して…結局綺麗にしていく、みたいな。。」

キー「やだ、なにそれ!家ん中の状態じゃん!
ミノ例えヘタすぎ!!」

ミノ「………」


ミノは眉間にシワを寄せ、苦い顔をして目を落とした。



知ってる。
ミノは優しいから、僕が泣いてたの知って話しかけてくれたんだよね。




ヌナの部屋だけじゃない。よく見るとリビングもキッチンも綺麗さっぱり片づいている。

ヌナのものは一つも残ってない。


キー「あっ!!!」


僕は急に思い出して、バスルームに走る。

ジョンヒョン「…忙しいヤツだなぁ」




バスルームから、肩を落としてトボトボと戻る僕に、ジョンヒョニヒョンが声をかける。

ジョンヒョン「どーした?キボム」

キー「…なかった。。
……ヌナと一緒に使ってたトリートメント、置いてってなかった。。」


ジョンヒョン「あぁ…。あのキボムが気に入ってたやつか。。
心配すんな、今度日本行ったとき買ってやるから。」


僕は静かに頷き、椅子に戻る。



この家の中にヌナのものは何一つ残っていなくても、
ヌナと過ごした時間や思い出が、確実に僕らそれぞれの記憶に染みこんでいる。



ジョンヒョン「あーあ、楽しかったなぁー。」

頭の後ろで手を組み背中を反らすジョンヒョニヒョンは、そのまま天井を見つめた。



みんなそれぞれが、ヌナとの思い出を呼び起こしていた。




ふと、テミンの方に視線を向ける。


ソファに埋もれるように座っているテミンは、これまで一言も発っすることなく、
目を伏せたまま動かなかった。



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