短編集

□歌声
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「〜〜〜♪」


昼食を終え、しばし戦士の休息をとった後、ぼくは日課である校舎の巡察を行っていた。

いつどこに敵が潜んでいるかもわからないからな。

真の力を隠して一般人に化け、この学校に潜入しているぼくが、か弱き生徒を守ってやらねばならないのだ。

悪の組織め、この学園には手を出させぬぞ!


1階から3階をぐるりと回る。

たまに二度見されたり、振り返る人々もいるが、これも孤独に生きる者の定め。

もはや慣れた。

渡り廊下を通って体育館の方へ向かおうとした時、どこからか、歌が聞こえてきた。

遠くて、歌詞までは聞き取れないが、綺麗な声だった。


「・・・っ!ディーヴァか!」


それは、白の歌姫か。はたまた黒の歌姫か。

ぼくはすぐに歌の聞こえる方へ走った。

階段を軽やかに・・・軽やかに下3段だけ飛び降り、

音楽室は3階だったことに気がついてまた登った。

並んで歩く男女の間を(わざと)くぐり抜け、

倒れ込みそうになる体を必死に支えて、

ぼくは、たどり着いた。


「ハァ・・・ハァ・・・、ここか・・・」


音楽室の扉の向こうから、今も聞こえるその歌声。

ぼくは、一度呼吸を整えるために深呼吸をしてから、静かに扉を開いた。


「〜〜♪・・・っ!?」


歌声が止み、一人の少女が慌てた様子でこちらを振り返った。


「あ、えっと、あの、すいません、ここ使われますか?私、でましょうか?」

「いや、構わない。・・・今の歌は、君が歌っていたのか?」

「えっ?あ、はい!そう、ですけど」

「・・・懐かしい、と感じた」

「えっ?」

「ぼくの失われた記憶に、こんなに響くものは初めてだ」

「え、失われ、え?記憶、喪失、なんですか?」

「自分の名前すら、思い出せないんだ」


よし、今はこの設定でいこう。


「た、大変です!保健室に・・・っ!!」

「いや、これはただの医者にはどうすることもできない。でも、君の歌を聞けば、何か思い出せる気がするんだ」

「え、歌、ですか?」

「ぼくのために、もう一度歌ってはくれないだろうか」


窓際に佇むディーヴァ(勝手に呼んでる)の前で、ぼくは膝をついて頭を深々と下げた。


「え!?え、ちょ!!た、立ってください!ていうか顔上げてください!」

「では、歌ってくれるのか・・・?」

「歌います!歌いますから!(なんかこの人ちょっと変かも〜〜〜;)」







あぁ、間違いない。彼女は白の歌姫だ。

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