短編集
□猫
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私は名も無き白猫だ。
最近、とある学校に住み着いた。
広大な敷地と豊かな緑。
食事時にはおこぼれももらえる。
のんびり過ごすには絶好の場所だった。
しかもここには、一風変わった人間が多くいる。
たとえば、今私の目の前にいる少女もそうだ。
私とは正反対の長い黒髪を、今日はひとまとめにして片側に流し、出来るだけ私と目線を合わせようとしゃがんでいる。
どうやら彼女には、私の言葉を理解することが出来るようだった。
飯が欲しい時、いくら鳴いてもほかの人間は
「ん〜?どうしたの猫ちゃ〜ん?かまってほしいの〜?」
などと的外れもいいところであるというのに。
この少女は、飯が欲しい時には飯をくれ、かまってほしい時には喉元を優しく撫でてくれる。
私は自然と、彼女のそばに寄っていくことが多くなった。
「ナー(飯をくれ)」
「ん?お腹すいたの?ごめん今はチョコしかないやー」
「ナー(ならばそれでよい)」
「いやいや、チョコとか食ったらあんた死ぬよ?死んじゃうよ?」
「ナー(人間は毒を食っても生きていけるのか)」
「そこまで万能じゃないあたしたち」
今日も今日とて、昼休みの短い時間を利用して、私と彼女は不思議な会話を続けていた。
だが、今日はいつもと違っていた。
「(・・・なんだ、あの少女は)」
今日は、傍らにもうひとり少女がいた。
いや、果たして少女と呼べるのか。
見た目や服装は、目の前に彼女と同じように見えるのだが、
如何せん、透けている。
向こう側の景色がぼんやり見える程度に透けている。
私は今まで、このような人間は見たことがない。
『あー、こないだクララ先輩に罵声を浴びせてた人だー』
口をきいた。どうやら、人間に近いモノらしい。
だが、その声に覇気は無く、なんとなくであるが、
「(何か、嫌なことでもあったのだろうか・・・)」
気持ちが、沈んでいるように見えた。
「んー?どうしたんだい猫くん」
透けた少女(と呼ぶことにする)を見つめすぎていたようで、黒髪少女(区別して呼ぶようにしよう)に変に思われたようだ。
どうやら黒髪少女に、透けた少女は見えてはいないようだった。
「なにか見えるのかい?」
『猫に・・・話しかけてる?』
「ナー(私と話をしていると怪しく思われるぞ)」
「だいじょぶだいじょぶ!今誰もいないしー」
『怖いお姉さんだと思ってたけど結構可愛いトコもあるんだなぁwww』
「ニャー(・・・怪しく思われるどころか可愛いに分類されたな・・・)」
「えー何何誰のこと?なんのことー?」
『猫くんずっとこっち見てるけどもしかして見えてんの!!?すげー!』
「ナー(話が噛み合わん奴らよ・・・)」
「ちょ、奴らってだれ?あたしとアンタのこと?それ以外に誰かいるの??」
『あ、でもお姉さんには内緒だよー?今のあたし幽霊みたいなもんだしー』
「ニャー(ほう、幽霊というのかお前は)」
「は?幽霊?マヂで?」
『え?幽霊?どこに?』
「ニャッ(いい加減にせい!)」
このあと、いつもよりも更に不思議な会話は十数分続いたのであった。
猫と、猫の言葉を理解する少女と、それを見つめる透けた少女の昼休み