短編集

□冬
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とある日曜日、俺はきたる冬に備えてマフラーを新調すべく、街に繰り出していた。

馴染みの店はすぐそこ。

中学時代に知り合った先輩が開いた店で、オリジナルデザインの雑貨ばかりを扱う店なのだが、センスもいいし、なによりも顔見知りということで多少の値引きがきくのがいい。

新商品も入ったと連絡もあったので、とても楽しみだ。

足取りは自然と軽くなる。

そんな時、交差点の先に見覚えのある後ろ姿が見えたのだった。


「あー!中川ちゃーん!」


私服だったのですぐにはわからなかったが、それは同じ学校の後輩の中川みらいちゃんだった。


「おや、五十さんじゃないか。奇遇じゃな」

「ホントだねー!私服新鮮ー!」

「ふふ、五十さんの私服も新鮮だな」


いつも着ている真っ赤なパーカーのままの俺と違い、中川ちゃんは落ち着いた色のおしゃれなカーディガンを羽織っていて、何だかいつもよりも随分大人っぽく見えた。

まぁいつも俺より年上っぽいんだけどもwww(*>▽<*)アハ


「中川ちゃんどっか行くの?お買い物?」

「雑貨を色々買いに行こうと思ってな。特に宛があるわけではないのだが、目に付いた店にでも入ってみようかと思っていたのじゃ」

「超冒険wwwwwwwあ!じゃあさ、俺の知ってる店行かない?今からちょうど行くとこだったんだ!中川ちゃんの趣味に合うかどうかはわかんないけど」

「おぉ!ついていってもよいのか?」

「もちろん♪」


ってことで、中川ちゃんも一緒に行くことになった。気に入ってくれるといいんだけど・・・





カランカラン

「先輩ちぃーっす」

「おーごてんじゃねぇか!久しぶりだなぁ!・・・ん?なんだ、今日は偉い美人連れてんじゃねぇか!」

「へへーいいでしょー?うちの学校の後輩ちゃーん♪」

「こんにちわ。五十さん、常連さんなのか?」

「うん!あれ俺の中学のときの先輩ねー^^」

「テメこら先輩に向かって“あれ”とはなんだ“あれ”とは!!」

ガッ

「いだっ!ちょ!先輩蹴るのは無しっしょー!」


この店の店長は、髭面で強面でとても2つ違いとは思えない先輩だが、昔色々と世話を焼いてくれた大切な恩人のひとりだ。

中川ちゃんがあまり怖がっていないようで安心した。

先輩顔怖いし。


「んで、今日は何探しにきたんだ?」

「マフラー!!!」

「マフラーを・・・」

「え?」

「え?」


綺麗に重なった声に、お互い目を合わせていると横の方で店長がブホッと吹き出すのが聞こえた。


「なんだなんだ、仲良しだなお前ら(笑)」

「いやホント・・・www中川ちゃんもマフラー探しにきてたんだねー^^」

「あぁ、本当に奇遇だな。去年まで使っていたものをいとこにやってしまってな、本格的に寒くなる前に新しいものを買っておこうかとおもったのじゃ」

「じゃあ、マフラーはあっちの棚にまとめてあっから、ゆっくり選んでこいや」

「はーい!」

「ありがとうございます」


店長が指さした店の奥の方へ二人並んでありていく。


「俺長いやつがいいなー!グルグル巻けるやつー!あと先っちょにポンポンみたいなのついてるのかわいいなー!」

「五十さん、それは女物ではないか?(笑)」


さすが店長の店だけあって、マフラーだけで種類も色も豊富だ。色々と手にとって見て肌触りや長さを確認する。


「種類は決めたけどー、あとは色だなー」

「・・・五十さんには、やはり赤が似合うと思うのじゃ」


悩んでいる時、横で中川ちゃんが小さく呟いた。


「え、そうかな?」

「赤は、エネルギーを持つ色だと言われておる。見ていると、前向きになったり、パワーが出る効果があるらしい。それに、暖色だから見ていて暖かい」



まるで、五十さんのようだ。と彼女は笑った。

その笑顔が何だかくすぐったくて、俺は、彼女が持っているマフラーと同じ形の、色違いのものを手にとった。


「・・・じゃあ、中川ちゃんは、緑色が似合うと思う」

「緑、か?」

「うん、俺さ、緑って見てると安心するんだよね。植物の色だからかな?何かそういうマイナスイオン的な効果?よくわかんないけど、と、とにかく、この色似合うと思う!」


段々と自分でも何を言ってるのかわからなくなってきて、まるで押し付けるようにマフラーを手渡しちゃったけど、もしかしたら中川ちゃんが緑嫌いだったらどうしようとか後になって色々考えちゃって。


「ご、ごめん。そっちの色の方がいいなら別にいんだけど・・・」


と尻すぼみに言えば、中川ちゃんは俺の手から静かに緑色のマフラーを受け取った。


「五十さんがそう言うなら、これにしよう」

「え、いいの?俺の意見でいいの?」

「あぁ、折角五十さんが似合うと言ってくれたのだ。これをもらうよ」

「じゃあ!俺も赤にする!赤!」

「よいのか?」

「いいの!赤!^皿^ニヒ!」






自分の手に握られたマフラーが、なんだかちょっぴり特別なもののように感じた。







「俺ら二人でクリスマスカラーだね!」

「あはは!それもそうじゃな!」

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