短編集

□初恋
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今でも覚えている。

祐太と初めて話したのは中学2年の秋だ。

校内放送で流れてきた音楽が何だか妙に気に入って、曲のタイトルを知りたくて、気がつけば放送室を訪れていた。

中に居たのは一人の男子生徒だった。


「何か用?」

「曲」

「あ?」

「さっきの曲、なんて名前?」


ちょうど彼の手には、さっき流していたのだろうと思われるCDとケースがあった。


「あ?お前このアーティスト知らねぇの?」

「知らない」

「へぇ、最近流行ってんのに。珍しいな」

「さっき流してた曲が気に入った」

「あ、そう?んじゃさ、」


そう言って彼は、丁寧にCDをケースに戻し、私に差し出した。


「貸してやるよ、ベストアルバム」

「いいの?」

「気に入ったら、他のも貸してやる。俺いっぱい持ってるから。お前名前は?あとクラス」


彼が隣のクラスの山田祐太という名前であることを、ここで初めて知ることになる。




+++++++++++++++++++++




祐太に教えてもらうものはすべてが新鮮だった。

それまで、母親のいいなりで、自分の趣味という趣味も持っていなかった私にとって、最近流行りの音楽も漫画もゲームも初めて見るものばかりで、楽しくて面白くて。

いろんな話をした。

いろんな話をきいた。

何を話しても楽しかった。

3年に上がって同じクラスになってからは、本当に1日中一緒にいた。

恥ずかしい言葉を使うなら、「親友」だったと思う。


「八十ー!今日うち寄ってけよ!こないだ言ってたゲーム、昨日届いたからやろうぜ!」

「おー行く行くー!やるやるー!」


あたしは剣道部から転部して美術部、祐太はバドミントン部。

部活が先に終わった方が昇降口で待って、一緒に帰るのがもはや日課。

約束なんてしなくても、いつの間にかどちらかが待つようになっていた。

そして祐太の家に一度寄って、遊ぶ時はそのまま遊んで、

そうでない日は、家に荷物を置いた祐太が私を家まで送る。

これも日課。


「いやーいつもすいませんねー送ってもらっちゃって」

「いやいやこちらこそ遅くまで付き合ってもらっちゃって?」

「え、何で疑問形よ」

「え、なんとなく」


帰り道は、本当にいろんなことを話したものだ。

ふざけ合ったり、寄り道をしたり。

家に帰るのが惜しいと思えるほどに。

毎日毎日、学校から家までの、2人だけの時間。

本当に、楽しくて、幸せで


「俺さぁ」

「え、なに?」

「1日の中でさぁ」

「うん」

「やとと話してるこの時間帯が一番好きだわぁ」

「・・・!ひひっw何言ってんの!」

「いやいやマヂでさ!」

「まぁ、あたしもこの時間帯が一番好きかなぁ」

「だろ?」

「だね」


目を見て、笑いあった。

同じ気持ちでいてくれたことが、素直に嬉しかった。

ずっとこのまま、“親友”のままでいれると信じて、疑わなかった。
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