短編集

□初恋
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別に、祐太と付き合いたいとか、振り向かせたいとか、そういう事は思わなかった。

多分、“好きな人”である前に“親友”だったから、そっちの関係が崩れてしまうことの方が怖かったのだと思う。

失恋はしたけど、友をなくしたわけじゃない。

現に今でも、あの日以前と何も変わっていない。

毎日祐太とバカやって、笑って、遊んで、

ただそこに、少しずつヒロミを入れてあげた。

何かのきっかけになればいいと思ったし、何よりも、ヒロミと話せた時の祐太があんまり嬉しそうに笑うもんだから、

私まで嬉しくなったのだ。



帰り道は、あいもかわらず2人。

今日も星を眺めながら海沿いの道をゆっくり歩いた。


「そういえばさ」

「何?」

「やとは、好きな男とかいねぇの?」

「・・・急にどしたん?笑」

「いや、何か、いっつも俺ばっかり話聞いてもらってっし、お前もそういう話無いんかなぁ〜って・・・」


祐太はガシガシと頭をかきながら、海の方へと視線を泳がせた。

自分ばかり色恋の話をするのが照れくさいのだろう。


「好きな男ねぇ・・・」

「え、いんの?いんの?」

「・・・うん、いるよ」

「マヂか!?誰々?俺の知ってるやつ?畑中とか!?」

「ないないw」

「三浦!?山下とか!?」

「さぁね〜」

「あんだよ〜誰だよぉ〜!・・・じゃあさ、告白とかさ、しねぇの?」


うん、言うと思った。


「しないよ」

「え、しねぇの?」

「うん、相手にね、好きな子いるって、わかっちゃったから」

「あ、そっか・・・」

「うん」


まぁ、あんたのことなんだけどね。


「大崎は、好きな奴いんのかなぁ・・・」

「いないんじゃない?そういう話聞かないし、むしろ男に興味ないんだってばあの子」


だからさ、そんなに背中丸くするんじゃないよ。

大丈夫だからさ。


「今更だけどさ〜、俺ってホント望み薄くね?つか望み無くね?俺マヂで人に好かれる気がしねー彼女出来る気ぃしねー」

「そんなことないってー、自信持ちなよー。ヒロミが特別難攻不落なだけなんだからさー」

「俺のこと好きになる奴なんかいるわけねーよー」

「いるってここに」

「・・・・・は?」

「・・・・・あ、いや、なんでもない」


今のは、さすがにまずかった。


「なぁ、今なんて?」

「なんでもなーい」

「おいやと」

「だからなんでもないってば」

「んなわけねぇだろ」

「なんでもないって!」

「やと」


怒鳴る私の手を掴んで、祐太は静かに、低く名前を呼んだ。


「言えよ、ちゃんと」

「・・・」

「聞くから」

「・・・あ、」

「うん」

「あたし、」

「うん」

「祐太が、好きっ・・・です・・・」


ほとんど半泣きだったと思う。

ずっと下を向いていて、視界に入る自分の足と地面が段々と霞んでいって、


「別に、付き合ってほしいとか、返事が欲しいとかそんなんじゃ、ないし、聞き流してもらえると、助かるっていうか」


握り締めた拳が熱くて


「っていうか、忘れて・・・」


頭が、痛くて

友達のままでいたくて、


「・・・・・」


祐太は少しの間無言で、でも、私の手は離してくれなくて、

だから逃げることもできなくて、

たった十数秒が、

何時間にも、何日にも、何年にも感じた。


「やと、」

「・・・なに」

「ありがとう。でもごめん、俺やっぱり大崎が好きだから」


それは、わかりきっていた答えだった。


「うん、知ってる。だから、」

「だけど」


祐太は、私の言葉を遮って言葉を続けた。


「だけど、お前とはこれからもずっと親友でいたい」

「・・・っ」

「フっておいて何言ってんだって思うかもしんねぇけど、これが原因でお前に距離置かれるのは、俺なんか嫌だ」

「・・・」

「なぁ、ダメかな?やっぱ・・・」


祐太は、私よりも泣きそうな顔でそう言った。

正直私といえば、悲しさとか寂しさよりも、嬉しさの方が勝っていた。

この気持ちを告げてしまえば、もう友達には戻れないと思っていた。

でも祐太は、“親友”としての私を必要としてくれている。

ただひたすら、そのことが嬉しかった。


「友達でいても、いい?」

「いいも何も、お願いしてんのはこっちだっつの」


その後、私たちは変な顔で笑い合って、またいつもどおり、2人で歩いた。
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