デスドアオリジナル

□奇跡の拳
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貧困と混沌による鬱々とした空気を表すかのように厚い雲が空全体を覆い尽していた。廃墟が連なるスラム街にはいくつもの暗く狭い路地がある。

そこは散乱したゴミと腐敗が吹き溜まり、まさに無法地帯と化していた。

そのうちの一つの路地から鈍い音が壁に反響し聞こえる。
一人の少年が6人の男達に囲まれて暴行を受けていた。

「おら、そっち行ったぞ!」
男は少年の顔を殴る。鈍い音が鳴り響き少年の小さな体を吹き飛ばした。

「あっち行けよ!」
別な男は更に少年を蹴り飛ばす。
通行人は見て見ぬフリをして去っていく。ここでは少年ギャングによる派閥抗争などは日常茶飯事であり、厄介事に首を突っ込むことなど誰もしなかった。ここには正義も悪も存在しない。

誰しもが今日明日を生きるのに必死だった。

少年はみるみる血だらけになり顔を腫れあがらせながらも決して抵抗せずに耐えていた。

その光景を傍らで見ていた一人の少女が舌打ちして立ち上がると少年の下に近寄る。
「こらこら!いい加減に辞めなさいよ!」
少女は赤い髪にピアスをし、タイトなレザーパンツに左腕には赤いバンダナを巻いているという派手な装いだ。

「なんだ〜お前ぇ!?俺達のゲームを邪魔すんのか!?」
体格のいい男が睨む。その腕には無数のタトゥーが刻まれ荒んだ生活の様子が伺える。

「何よ!こんなか弱い美少女にまで手を上げる気!?」
少女は強気で男に屈する様子はない。むしろ笑みを浮かべて不敵な態度だ。

「あぁん?」
男は顔を近付けると更に睨みを効かせる。少女の鳶色の瞳を見ると尋常ではない何かを感じた。それは喧嘩の場数を踏んできた男には敏感に感じ取れるものだった。

「くっ…おい!お前ら行くぞ!」
男は地面に唾を吐き去っていった。その後に不満そうな表情をして仲間たちが後を追う。

「ふん!ベェーだっ!」
少女は舌を出しておどけ地面の砂を蹴る。倒れてる少年に近付く。

「男の子のくせにいつまで寝てんの?」
少女は腰に手をあて少年を見下ろす用に仁王立ちしている。

「痛っ…あ、ありがとう…」
少年は立ち上がると服の埃を払い鼻血を拭った。

「あんたねぇ!男の子ならあんな奴らに一発食らわしなさいよ!情けない!無抵抗で殺されるくらいなら一発ボカンと殴った方がマシよ!あんな連中見た目だけでまるっきり弱そうだったわ!」
少女は人差し指を立て一方的にまくしたてる。

「そうしたいのはやまやまだけど…僕…一応…プロボクサーだからできないんだ…。」
少年は頭を掻きながら照れくさそうに半笑いで答える。その仕草に少女はイラついた。

「はぁっ!?あんなに弱っちぃのに!?プロボクサー!?」
少女は驚く。

「弱いとは酷いなぁ…これでも結構やるんだよ。まだ4回戦だけど。素人には手を出せないんだ…」
少年は困り顔で言う。

「ふぅん、君…名前は?」
少女が名を尋ねると一瞬嬉しそうな表情になる。

「僕はマッド…マッド・ボルティ!」

「な、名前だけめちゃ強そうなのね…!あたいはキリコ!」
キリコは手を差し出すとマッドは照れくさそうにキリコの手を握った。
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