デスドアオリジナル
□奇跡の拳
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キリコが街を散策していると一羽のカラスが電線に留まっていた。
「はーい!ノスタルジア!」
キリコは手を振る。
「キリコ!なんかまた面倒なのに巻き込まれてるのかしら?」
ノスタルジアはキリコの肩に飛び移る。
「まぁね!この街はどんな感じ?」
キリコが聞くとノスタルジアは首を回す。
「たいして広くはないわ。でも凄く緻密で何か虚栄心のようなものを感じるわ」
「ふーん、そうなんだ!しばらくは楽しめそうね!」
「キリコ、またあなた仕事の事忘れてない?」
ノスタルジアが詰め寄る。
「忘れてないわよ〜ただそそくさと終わらせちゃうのが勿体無いだけよ!あたいはもっともっと不浄のセカイを楽しみたいの!」
キリコは街を見回す。
街は薄汚れて鉄クズにまみれていた。
人々は貧しさに飲まれどこか陰湿な雰囲気を醸し出していた。
だがこの暗いセカイでは人々を熱狂させる何かがあるのだ。
人だかりができて賑わってる場所にキリコが向かう。
「キリコ!ちょっと!」
「ノスタルジア、ちょっと待っててね!」
キリコは人ごみの中に紛れていった。
「本当に自由奔放なんだから…」
ノスタルジアはため息をついた。
キリコは人をかき分けて前に行くとモニターにボクシングの試合が映し出されていた。
「お!まさにこれですな!」
キリコは興味深くモニターを見る。
試合は一方的な展開だった。対戦相手は血塗れで戦意が喪失している。
「うわぁ…」
周りの観客が選手の名前をコールしていた。
「ベーア!ベーア!ベーア!」
「…まさか…ね」
そして対戦は決着した。
相手の顔面は原形を留めてなかった。
拳から血を滴らせて勝ち名乗りを上げる。
「勝者!バイソン・べアーッ!!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
キリコはすぐさまモニターの前から走り去る。
「絶対勝てないからーっ!!」
キリコは心から叫んだ。
「何騒いでるのよ!」
ノスタルジアが飛んでくる。
「あのね!ノスタルジア大変なのだ!カクカクシカジカで…。」
とキリコが身振り手振りで語る。
「キリコ…カクカクシカジカじゃわからないわ!」
「あのね…そこんとこ察してよね!」
キリコが舌を出しておどける。
一連の出来事をノスタルジアに話すと納得して何度も頷いた。
「なるほどね。キリコはまたお節介してその軟弱な少年を凶暴極まりないゴリラ男と戦わせるのね?」
「あたいが戦わせるんじゃないの!あいつが戦いたいと言ってるのよ〜で、おまけに勝ちたいとのたまうてるわけ!」
「つまり自殺したいのね!」
「そうなのかしら?」
キリコとノスタルジアは固まる。
「とりあえず明日あいつに話すわぁ…。」
「そうしなさいな!このセカイにいるということは…。」
「そういうことよね〜…。」
二人は顔を合わせて同時にため息をついた。