追跡

□第1章…追跡者
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薄暗い公園の一画で一人の中年男が多数の少年達に囲まれ暴行を受けている。その中の一人の少年は鉄パイプを所持していた。その先端は血に塗れて赤い雫が滴って血だまりを作っている。
地面に投げ出された男の携帯電話からは女の子が叫んでいる声が聞こえていた。

「お父さん!どうしたの!?お父さん!!返事して!!お父さん!!」
少年の一人がその携帯電話を蹴り飛ばす。
そして中年男のポケットをまさぐると財布を掴み出して中身を無造作にバラ蒔いた。
小銭がジャラジャラと散乱する。
「けっ!案外しけてんな?もしかしてリストラされて公園でまぶってたのかよ?」

「あ…がっ!頼…む…金はやる…勘弁してくれ…。」
少年が男の髪の毛を掴み上げる。
「おい、おっさん!悪いけど顔見られちまったし、まともに帰すわけにはいかねーんだよ。素直に金出せばこんな事にならなくて済んだのにな!」

「お前ら…こんな事して…ただで済むと…」
少年は口にくわえていた煙草を中年男の瞼に押し付けた。

「がぁぁぁおわぅがぉっ!!あがあぁぁぁ!!」
水分が一気に蒸発すると音と共に眼球が焼けて中年男は目を押さえてのた打ち回る。
他の少年達はそれを見て腹を抱え笑っていた。

「おっさん!日本の法律知らねーの?少年法って!俺ら未成年だから人殺ししたって法で裁かれる事ねぇんだよ!名前すら公開されねーんだから。」

「少年Aってか!ギャハハハ!」
「んじゃ俺らABCじゃん!」
「ウケるーっ!」
少年達は狂ったようにカン高い声で笑いながら男を蹴る。

「く…狂ってる…!?」
中年男は何とか立ち上がろうとするが体に力が入らずに動かない。

「捕まったって俺ら守られてるしな 。保護観察処分だっけ?」
「ああ、少年法最高♪今の内に殺人も経験しておかないとね!」
「反省してるフリすればどうって事ないしね!」
少年の一人が男の頭部を蹴り上げる。
「がっ…ぷぁっ!」
口から血が霧吹きのように噴き出す。
「せーのっ!」
少年達は男を更に激しく殴打し、その際に男の携帯電話を近くに置いた。

電話の向こうには中年男が殴打され悲鳴を上げ命乞いをする声が届いていた。

そして男の断末魔の声が公園内に響くと少年は電話を手に取る。

「お…お父…さん?」
女の子の声は震えていた。
少年は口元を笑みで歪ませると言った。

「君のお父さん。ご臨終しました。ご愁傷様でーす♪」
そして携帯電話を草むらに放り投げる。
男は激しく痙攣をしており、その目は虚ろで焦点が定まっていない。
「うう、ぐぐぅ、あがぅぉっ…」
「おいおい、しぶといなぁ。早くお寝んねしな!」
鉄パイプを振り下ろすとまるでカボチャを叩き割った様な音がすると男は痙攣が止まりピクリとも動かなくなった。
目は光を失い口は脱力しきって舌を出していた。
「お、おい、死んだんじょないか?」
「マ、マジかよ…」
少年達は顔を見合わせるが鉄パイプの少年はため息を漏らす。
「あーあ、つまんねーの。カラオケ行くか?こんなんじゃ死なねーよ!記憶喪失くらいにしとかないとヤバイだろ?」

こうして少年達は公園を後にし、夜の繁華街へと消えて行く。

放り投げられた携帯電話からは女の子の泣き叫ぶ声が延々と続いていた。
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