追跡
□第3章…それぞれの日常からの変異
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セイジは自宅に到着すると玄関を静かに閉めてコソコソと二階の自室へと急ぐ。
もう何年もこうして両親に見つからないように出入りをしている。
「今帰り?」
セイジの母が顔を出す。既に五十も過ぎ、頭には白髪が点在し目尻には深いシワが刻まれている。実年齢よりもずっと年上に見られる事を気にしていた。
少なからず今の息子の現状に呆れ返っていた。
「ああ…」
罰が悪そうに返事をする。
「あんたこんな夜中まで何やってんの?」
ため息を吐くと同時にできる限り小さく言った。何度となく同じ事を言ってきたが息子の答えはいつも同じだ。「べ、別に…関係ないだろ!」
セイジは声を荒げる。その後にしまった!といった顔をすると目を泳がせる。先ほどまで寝息を立てていた父 親が起きてくる。
それは明らかに苛立ちながら扉を開けるとセイジを睨みつけた。
「お前は…仕事もしないで毎日ダラダラ過ごしやがって!!」
父親はいきなり凄い剣幕で怒鳴りつける。
「うるせぇよ!!これでも考えてニートやってんだよ!!国に働き蜂みたいにこき使われてるお前らとは違うんだよ!!いつか大成功してこんな小さな家じゃ比べ物にならない豪邸建ててやる!!」
セイジはそう怒鳴ると階段を駆け上がり部屋に入っていく。
「ちっ…だから顔合わせたくねーんだよ!」
机に座るとパソコンの電源を入れる。
いつも書き込みをしている掲示板のONちゃんねるを見るためだ。
1日の大半はそこに書き込む作業に没頭していた。
「へへ、ニート神のご降臨だぜ!!」
猫背になり画面見入る。青白い光がセイジの顔を照らしつけた。
「な…なんだこりゃ?」
セイジは掲示板の書き込みに驚愕した。
………
235 : ブタキング
今夜ショウジを殺る!
236 : 名無し
>>235おまいじゃムリポ!逆に逝くはめになるwww
237 : 名無しVIP
>>235ブタキンがやるなら俺はアキラ殺るw
………
画面にはショウジとアキラの名前が連なり殺害予告が並んでいた。
「お…俺仲間だと思われてないよなぁ?」
セイジはキーボードを叩く。
………
247 : エンドレスラブ
神降臨!!
おまいら乙!
話を聞かせてもらおうかww
………
セイジは情報を引き出そうと掲示板にひたすら書き込んだ。
そして…。
………
322 : 名無し
バラバラ事件の容疑者は三人。
……
そこにはアキラ、シンジ、ショウジの名前が連なり顔写真や住所までが記載されていた。
「はは…あいつら…ヤバいぜ…」
セイジは流れる冷や汗を拭う。汗は脇の下を滑り落ちて冷たい嫌な感覚があった。
彼らにかけられた100億円の懸賞金がネットの住人達の理性を狂わせていたのだ。
宝くじよりも貰える確率が高い上に一生働いても稼げない金額。
そして自分達の素顔はおろか素性も何も知られる事はない。
後ろから不意打ちを食らわせればよい簡単な仕事だった。
こうしてアキラ達は顔も知らないネットの住人達から命を狙われる事になったいった。