追跡

□第4章
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少女は目を開ける。

そこは薄暗い石造りの殺風景な部屋だった。
部屋の真ん中には溝があり汚れた水が流れていた。
奇妙な部屋だった。

「お姉ちゃん…大丈夫?」
脇には弟のトモがいた。
そうだ、自分はトモと一緒に買い物でデパートに行った。
その帰りのバスに乗ったまでは覚えていた。

少女の名はカリンといった。
カリンは立ち上がり部屋の周りを見る。
無機質な石の壁に重厚な鉄の扉があった。
カリンは駆け寄り手をかけ力を込めるが微動だにしない。
振り向くとトモが不安な顔をしている。

「大丈夫!お姉ちゃんが守るから!」
薄暗さに目が慣れてくると床に赤茶けた大きな染みがいくつも存在していた。
それは壁にまであり、まるで芸術家が描き殴った抽象画のようだった。

「家に帰りたいよ…」
弟が呟く。
カリンは護身用に持たされていた携帯を探した。
確かにポケットに入れていたはずだが無い。

突然鉄の扉の下部にある小さな開口部からパンが投げ入れられた。

「パン…」
カリンはパンを拾うと開口部を覗いたが暗い闇で何も見えなかった。

「お腹空いた…」
トモが呟く。
カリンはパンを全てトモにあげた。

「お姉ちゃん、半分こでいいよ!」

トモは小さなパンを2つにして差し出す。

「お姉ちゃんお腹空いてないから全部食べていいよ。」
昼にデパートのレストランでピラフを食べたがだいぶ腹は空いていた。
ここから逃げる手段を考えなければならなかった。

鉄の扉は少女の力ではビクともしなかった。
唯一の脱出口は真ん中にある水路だったが、流れが激しい上にだいぶ汚れている水なために入るのが躊躇われた。
時間の感覚はまるで無かったが空腹の具合からすると随分時間が経っているものと思われた。

「大丈夫!お母さんとお父さんが心配して探しているから!助けてくれるからね!」
まずカリンは自分が置かれた状況を整理する事にした。
なぜここに連れて来られたのか?
パンを投げ入れた人物が自分達をここに連れて来たと思われる。
何の目的かはわからない。

この部屋から脱出できるのは鉄扉だけ。
しかし力ではどうにもならない。
おそらくは外部から鍵がかかっている。

どうすればいいのか考えた。

水路が流れているという事はどこかに繋がっているはずだ。
カリンは水路に近付く。
水はどす黒く異様な匂いを放っていた。

「すいませーん!すいませーん!誰か居ませんか!?」
カリンが声を上げ
ると壁に反響する。
しかし水路の向こうで微かに声がした。

「あなた誰?あなたも捕まったの?」
憔悴しきった女性の声だった。

「捕まった?そうかもしれない…でもなんでこうなったのかわからないの!」
カリンは必死に女性の声を聞こうとする。

「そう…あなたもわからないのね…何日ここにいるか私もわからないの…助けはいつ来るの?」

女性の話にカリンは絶望感に包まれた。
女性はおそらくは何日もここにいる。
自分達も同じように助けは来ないかもしれない。

カリンの手足が震えだした。
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