デスドアオリジナル

□学校
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 遠くから雷が聞こえる。


 ゴシック調に装飾された格調高い雰囲気の廊下には自分の足音が反響し、窓の外は暗く今にも雨が降り出しそうだった。

 机が整然と並ぶ教室には誰もいない。室内に響く時計の秒針は一秒を刻むとまだ戻り進んでいなかった。時刻はちょうど8時を差している。

 机は特に使われた形跡もなく、まるで新品のような輝きを放っていたせいか妙な違和感があった。
 シュクレンはまっさらな黒板に白チョークで書かれた文字を見る。

「日直…水無加奈…」

「ねぇ、君転校生?」
 不意に後ろから声がしたので振り向くと教室の入口に屈託のない笑顔の少女がいた。
 髪は艶やかに黒く三つ編みにしており、背丈はそれほど高くない。赤い縁の眼鏡がとても似合っていた。

「あたし、水無加奈(みずなし かな)!あなたは?」
「私は…シュクレン…」
 ボソリと答える。

「変わった名前ね!外国から来たの?目も蒼いし、髪も銀髪ね!珍しいね!ハーフってやつ?帰国子女ってやつかな?」
 加奈はシュクレンの髪を触り手触りを確認すると匂いを嗅ぐ。
「いい匂い…いいシャンプー使っているのね!今度教えて!一緒に買いに行くの付き合ってくれる?」
 加奈はシュクレンの周りをクルクル回って見る。
「あなたの服変わってるわね!とてもいい生地だわ!和服のようだけど少し違うね。どこの制服?」

「他の人は…?」
 校舎や校庭にも人影は見えなかった。静寂が校内を包み、二人の声だけが長い廊下に反響していた。

「ん?ああ、他の生徒はいないのよ。あなたとあたしだけ!」
 加奈はチョークを手にすると黒板の日直の欄にシュクレンの名を書く。
「え…?」

「だって夏休みだもの!次の学期から来るんでしょ?噂で聞いていたわ。可愛らしい転校生がやってくるって。ずっとあなたの話題でもちきりだったのよ!あたしはすっっっごく楽しみにしていたんだから!」
「あなたは…どうしてここにいるの?夏休みなのに…」
「あたしは補習!頭悪いからさ!ここお嬢様学校で進学校じゃない?うかうかしてると置いていかれちゃうのよね!そうだ!せっかくだから学校案内しようか?」
 加奈はシュクレンの両手を握る。その手は温かく柔らかいが、何か嫌な感じがした。

「…うん」
 シュクレンが頷くと加奈は満面の笑顔で頷き学校を案内してもらう事にした。
 窓の外にはカラスが一羽飛んでいた。

「ねぇ!学校は好き?」
 加奈は笑顔で訊く。
「ん…わからない」
 シュクレンはふと何かを忘れているような不安な気持ちになった。
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