デスドアオリジナル2
□クズ鉄の少女
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瓦礫が空から落ちてくる。
それは轟音と共に地面へと叩きつけられ巨大な瓦礫の山を形成していた。
遥か天空には富の象徴である浮遊都市が築かれ、空を覆い尽すかのように圧倒的な威圧感を漂わせている。
地面に繋がれた太いワイヤーとパイプラインがギチギチと耳障りな音を立てていた。
瓦礫が大量に積まれた中、一人の少女は鉄屑を拾い集めていた。一つ摘み目を細め吟味すると袋に入れる。
見渡す限り広がる瓦礫の中から集めた鉄屑やガラスの破片などを加工し装飾品として売り生計を立てていたのだ。
しかし、貧困層がひしめくクズ街では装飾品などに目を向ける者は少なく売上など無いに等しい。
ここでは新鮮な食品が貴重であり、クズ街に住む人々にとって“今日を生きる事”でさえ容易な事ではないのだ。
「これじゃパンも買えない…」
少女は手持ちの少ないコインを見ると小さくため息をついた。購入するパンに至っても浮遊都市から廃棄されたものでありカビだらけなのが殆どだった。
それでも生きるために腐った物でも食べなければならなかったのだ。
「綺麗だね!ねぇ、これいくら?」
不意に女の声がして顔を上げると赤い髪に派手な装いをした女が笑みを浮かべて立っていた。
その装いから察するにクズ街の住人ではないと察した。
「え?あ…500…くらい…」
「じゃあ、貰うわ。はい!」
女はコインを少女に渡す。
「ありがとうございます…」
少女は渡されたコインを見つめる。それはとても綺麗で見た事もないコインだったが気にせずにポケットへと入れた。
「しかし、酷い街だわね!雑多で薄汚れて陰気臭いわ。あたいはキリコ!あんたは?」
キリコは満面の笑みを浮かべると握手を求めて手を差し出す。
「…ジェシカ。」
ジェシカはゆっくりと手を差し出すがキリコは素早くジェシカの手を握る。傷だらけで汚れており子供とは思えない程にゴツゴツした老婆のような手だった。
「あたいね、旅をしてるんだ。それで最初に話した子の名前を聞くの。君はとてもいい目をしていたから気になってさ!」
キリコは笑顔を向けるとジェシカは思わずつられて笑みを浮かべる。
「いい…目?」
「うん!とても透き通ってる蒼い瞳…あたいの大好きな子にそっくりな瞳!この街には不釣り合いだわね!」
キリコは何度も頷きジェシカの顔を見つめる。ジェシカはやや照れくさそうに視線を逸らした。
「…大好きな…子?」
「話し方まで露骨にそっくりね…でね、お姉さんからお願いがあるのよ!」
「…何でしょうか?」
「家泊めて!今夜寝る所ないんだ!この街ったらホテルなんてないのね!本当に困り果てちゃって途方に暮れてがっかりショボーンなのよ!」
キリコは両手を合わせてジェシカに懇願する。
「…何もできないけど…いいよ。買ってくれたから。」
「ありがとーっ!今夜は楽しい夜になりそうだわ!」
指を弾き鳴らすと嬉しそうに飛び跳ねる。
高架の下に板を張り合わせてこしらえた簡素な壁に囲まれた所でキリコは段ボールにくるまり震えていた。
「さ、寒いわ…まさか、ホームレスだったなんて…」
夜になると気温は急激に低下し零下10度ほどになる。
「この街じゃ家を持ってる方が珍しい…」
「親はどうしてるの?」
「わからない…物心ついた頃から親はいないしこの街にいたから…」
突然大きな音が街中に響き渡りキリコが飛び起きる。それは雷のように大気を震わせた。
「な…なんなのよ!?」
「浮遊都市からの廃棄物…それを私たちが選別して加工して…浮遊都市にまた使えるように戻すの。ずっとそうやって暮らしてきた。」
「そんな技術があるなら自分たちが使う物を作ればいいじゃない?」
キリコが訊くとジェシカは首を振る。
「それは…神様が許してくれない。」
「は?神様?」
「うん。浮遊都市に住んでるのは神様なの。…だから逆らえないの。」
キリコは起き上がり空が見える場所に移動して浮遊都市を見上げる。
「神様なんかいないわ。もしいたらあたいの前に現れてほしいわね!思いっきりぶん殴ってやるわ!」
浮遊都市の眩しい光は空に広がり街には暗い影を落としていた。
この街は浮遊都市の廃棄物でできた街だった。
そして行き交う人々も体の一部が欠損していたり、その欠損部分をあり合わせの鉄屑で義手のようなモノを作り装着していたりした。
ここに住む人々はどこかぎこちなく精彩を欠いていて、まるで能面のような無表情の者が殆どだった。諦めや失望、そして絶望といった負の感情が街全体に暗い影を落としていたのだ。