追跡

□第1章…追跡者
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少年の名はアキラと言った。
教育熱心な母親と厳格で仕事が趣味のような父親の下で育ち、真面目で大人しい性格だった。
しかし、高校受験に失敗してから母の期待は裏切られた思いの敵意へと変わり、アキラをただの迷惑な居候人というような態度を取るようになっていた。
酷く怪訝な顔をいつもしており、ここ数年はまともな会話をした事がない。

仕事人間であった父はこの折の不景気によりリストラされ街をフラフラとさ迷い歩く日々。
仕事がリストラになった事は母にもアキラにも話してはいない。だがある日公園でサンドイッチを食べている父の姿を見たことがある。
その姿は全く覇気がなく、みすぼらしい浮浪者のようでアキラは心底失望した。
こうした事もあり家庭内では度々言い争いがあり夫婦喧嘩が絶えなかった。
家庭内の不和がアキラを非行へと走らせ、同じような境遇にあるであろう連中と連日のようにバイクで夜の街を仲間と共に暴走し窃盗、暴力を繰り返していたのだ。
それはアキラにとっても不本意ではあったが自分の居場所はここにしかないと半ば諦めていたのかもしれない。

朝にテレビを観てると公園で遺体が発見されたニュースが報道されていた。
それは紛れもなく自分達が殺してしまった男性だった。
多くの報道陣の中をかき分けていく警察官の姿をじっと見つめる。毎日のように起きる凶悪事件のニュースの一つだが、まさか自分が加害者の立場で観る事になるとは思っていなかった。
「し…死んだのか?」
アキラは心底震えた。
散々悪さはしたが殺人は初めてだった。
昨夜は仲間達と一緒にいたために罪悪感も薄れていたし、妙な高揚感に陶酔し自制がきかなかったなかった。
ただ悪乗りしていただけで、人は簡単には死なないという認識があった。

あれから男性はしばらく息はあった。
少なくとも自分が立ち去る間際、息を吹き返し生きていたのだ。

すぐに救急車を呼べば命は取り留めたかもしれない。
だが自分達は少年法に守られていて大丈夫と思ってはいたが、自ら故意に暴行したのではなんらかの罪に問われる気がして怖じ気づいたのだ。
そして男性が本当に死ぬとは思っていなかったのだ。
他の誰かが通報して救急車くらい呼んでくれるだろうと思っていた。
「ま、大丈夫だろう…誰にも見られてないし…な。」
アキラは不安な気持ちを胸に抱え再び夜の街に駆り出した。
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