居場所

□02
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十束 多々良side

―――……参ったな。


俺はかすかに震える少女の隣に座って心の中で思った。

こう思うことになったのは、数分前にさかのぼる。


*    *    * 


「尊!?この子女の子やないか!!」

今まで男の子だと思ってのが女の子…
なんてベタな展開に吠舞羅のメンバーは驚愕した。

とりあえず女の子をソファに下ろし、体に毛布を掛け頭にタオルを乗せると
ずんずんとキングに草薙さんは歩み寄る。

こりゃ一悶着起こるなとなだめに入ろうとすると、アンナがパタパタと俺より先にキングに向かって走り、まだ脱いでいないぬれたコートの
裾を引っ張った。



「手、怪我……してる。
………どうしたの?」



アンナの言う通り、キングのタバコを持つ手には大きな裂けたような傷が掌にと指中に切り傷があった。





キングは一度周りを見てこの話を聞いてる人を確認する。

聞いてるのは、俺、草薙さん、アンナ、そして気だるそうにこちらを見ているサルくん。

他のヤツはキングが女の子を連れてくるなんてと騒いでるせいでこちらが集まっていることは気に留めていない。

キングはタバコの煙を吐き出した


「……あのガキ、バーの裏で




ナイフで胸を突き刺そうとしていた。



…止めたらいきなり膝から力が抜けたみたいに倒れこんだから連れてきた。
自殺未遂してた時からあんな様子だ。」



草薙さんが眉根を寄せた。

そしてちらりと女の子を見てカウンターの中に入って紅茶を用意し始めた。


「なにはともあれ、とりあえず落ち着いて話ができる状況にせなアカンな」

草薙さんが紅茶を淹れ終わると俺はそれを手に取った。

「俺が行くよ。こーいうの得意なんだ。」

昔、アンナにしたように、
今はカレーではなく紅茶だが俺は女の子の座るソファに腰かけた。

「紅茶、よかったら飲む?
……ここ置くね。」

ソファの前に置いてあるテーブルに紅茶を置いて女の子の瞳を見据える。

ただ、なにも感じていないようにぼぅっと宙を見つめる瞳。

俯いた顔からは何も伺えない。

びしょびしょに濡れた明らかにサイズが合っていないの男物のコート、フードをしていたはずなのにこちらもびしょびしょになったきれいな髪からは雫が滴り首を伝って服の中へ入っていく。
これじゃすぐに風邪をひいてしまう


―――……参ったな。


これはある意味アンナを相手にしたときよりはるかに難関かもしれない。

意識があるのか、ないのかがまずはっきりしない。

とりあえず話しかけてみよう。



俺はそう考えて実行に移した。

「寒くない?コート脱いだ方がいいんじゃないかな。」

返答はなし。

俺は少し気が退けるがコートのボタンを外し女の子からコートを引っぺがした。

コートの中は見慣れないブレザー制服だった。

きちっと着こなしているな、と思いながら毛布を肩から掛ける。

膝の上に置いた手にかかった毛布を女の子はキュッと指でつまんだ。


「…寒いよね。」

きっと本能的に寒くて毛布をにぎってるんだと思った。


「どうして、こんなことしたの?」

俺は脱いだコートを触った。


コートの胸部には敗れた痕がある。

キングが言った胸にナイフを突き立てたときに
できたんだろう。


微笑みながら女の子の顔を覗き込むと
一筋の雨粒とは違う雫が頬を伝った。



「………!

ごめんね…聞かない方がよかったよね。」

雫はせき止めを失ったように双眸から溢れる。

俺が焦り始めると、女の子はゆっくりと目を閉じた。


体が俺の方に傾く。

トスンと俺の肩に頭が乗っかる。

俺は女の子の体を支えながら彼女が規則的な吐息を紡ぐ事に安堵してゆっくりと女の子の負担にならないようにソファから立った。





「寝たんか?」


草薙さんは小さな声で俺に聞いた。


無言で頷くと俺は少しだけ分かった女の子の事を話した。

「こっちの話は聞こえてるみたいだけど、受け答えはとてもできる状態じゃなかった。」

重い沈黙が降りかかる。


しかし伏見くんが沈黙を破って思ったことを言う
「あのガキ、痩せてますね」


「あぁ、背負ったときも軽すぎると思ったわ。
あの子、いくつなんやろな。」

「中学生、が妥当じゃないかな」

俺は草薙さんの疑問に自分の意見を言った。


そしてまた沈黙がバー全体におりる

下の連中は気を使って各々かえって行く。

静かになったバーの中、暗く沈む俺らと死んだように眠る女の子。


俺らは彼女が目を覚ますのを夕方近くまで待ち続けた。





夢主side

夢を見ている。

男の人が私に話しかけている。

何を言われたのか、私は泣いていた。



――もう泣かないと、決めたのに……。



そんなことより


はやく死なないと。




そう心のどこかで思いながら私は目を開いた。

見慣れない天井が視界にはいる。

お酒臭い、と思い目だけを身慎重に動かさせてあたりを見る。

奥の方にカウンターがあってそこに背を向けた男の人たちと女の子が一人いる。


ここから逃げないと、


私は死なないと。

そっと今まで寝ていたソファから立ち上がり出口らしきドアに向かう。


「…っおい!!」

眼鏡をかけた男の人が私に気づく。


逃げなきゃ、はやくここから離れなきゃ。


私は走ってドアから雨の降る外へ飛び出した。



伏見side


俺が気配に気づいてソファの方を見るとガキが今まさに逃げようとドアに向かって歩いてると頃だった




「待って!!」

十束さんが外に逃げたガキを後ろから捕まえる。

「大丈夫、怖くないよ。

ここは寒い。バーの中に入ろう」

ガキを抱きしめてそう伝える。

ガキは怯えながらも十束さんに従う。


カウンターの真ん中の席に座らせカウンターの中から草薙さんガキに紅茶をすすめながら問う。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「……」

一向に応えないガキに草薙さんは仕方がないかとアンナに目くばせした。

アンナは赤いビー玉越しにガキの目を見る。


「珠洲」


アンナがそういうとガキは目を見開いた。


「ごめんな、えーっと珠洲ちゃん。

アンナはなんでも見えるんや。」


申し訳なさそうに草薙さんはガキに伝える。


「自分で、言ってくれへんか?」

さすがに個人のことを本人の意思を無視して知るのは気がひけるのだろう。

しかしアンナはその横で首を振った。


「ごめんね。」

アンナは心配そうにガキの顔を覗き込んだ。

ガキは警戒しきっているが小さな声を無理やり絞り出すようにして喋った。

「…神楽野 珠洲……です。」



「ゆうてくれてありがとな。
じゃあ今度はそうしてここの近くに来たかわかるか?」


草薙さんがそう言ったガキは

「…気が付いたら…ここに……居ました。


やっぱり、私は人じゃ……ないんです。」

俺はガキの発言に眉根を寄せた。


人じゃない?


急にアンナが席から下りてガキに駆け寄った

「大丈夫、あなたは人だよ。」

今にも泣きだしそうな不安げな表情をするガキを慰めるように「大丈夫」とアンナは言った。

「アンナ?何がわかったの?」


アンナは十束さんに問われ躊躇した後はっきりとこういった。


「珠洲はストレイン。」



   



   

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