居場所

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周防 尊side



―――早朝

「ねぇ、キングも伏見くんも珠洲ちゃんのこと名前で呼んだら?」

伏見が帰り支度をしているさなか、
十束が急に言い出した。

伏見はあからさまに面倒くさそうな顔をする。

「ふざけてるのか。」

俺はそういってタバコを吸った。

「ふざけてないよ。
だって二人とも『ガキ』なんて味気ない言い方でしょ?
きっと珠洲ちゃんだっていつか傷ついちゃうよ。」

「……前向きに検討しておきます。」

伏見くんは吐き捨てるように言って家に帰って行った。

そして俺は口の中でアイツの名前を転がす。


………珠洲…か。






++++++++++++

十束 多々良side


時刻は朝の七時をまわったところ。
俺は今まで寝ていたソファから起き上がって洗面台に向かい寝癖がないか確かめながら顔を洗ってバーのカウンターに着いた。

「なにしてんの?草薙さん。」

草薙さんは器用にフライパンを使って料理を作っていた。

「パンケーキ。アンナと珠洲ちゃんと、ついでに尊の分の朝飯や」


フライパン返しでくるりとパンケーキをひっくり返す。

「俺も食べたい。」

草薙さんは「あまったらな。」といって再びパンケーキ作りを始める。

その時、木がきしむような音がした。

音のする方へ目を向ければそこには可愛らしい二人が居た。

珠洲ちゃんはアンナに手をひかれ、階段を下りてくる。

「朝飯できたで。はよ食べ。」

アンナはカウンターにパタパタと駆け寄り椅子に座って山盛りのパンケーキを頬張った。

でも珠洲ちゃんはそれを遠くから眺めていた。

「どうしたの?」

問いかければ、申し訳なさそうな返事が返ってくる。


「あの、鞄……ありがとうごさいます。」

「いいのいいの。
それより、はやくご飯食べなよ。
冷めちゃうからさ。」

俺の言葉に一瞬珠洲ちゃんは驚いてから鞄を握る手に力を込めた。

「あの、………お構いなく……。
私、もう出て行きますから………。」

珠洲ちゃんは俺から目線を逸らした。
そしてお辞儀をした後くるりと背を向けてバーの扉に向かったその時――

「ここにいろ」


「キング……。」

キングが珠洲ちゃんの肩をつかんでいた。

「そーや。そのことで話もあるんや。」


草薙さんもカウンターの中から声を上げる。

とりあえず俺はキングに肩をつかまれて怯えきっている珠洲ちゃんをカウンターに座るよう促して珠洲ちゃんの隣に座る。

キングも俺と反対側の珠洲ちゃんの隣に座って珠洲ちゃんを囲む形とする。

なんだか逃げ道を無くしてるみたいだなぁ…



「それでや、珠洲ちゃん。

ちょっとした説明をさせてもらうで。


この世界には王権者ちゅうのがおる。
青の王に青の王、黄金の王なんかもいてな
ちなみに隣に座っとる尊は赤の王や。


まぁ、いきなり言われてもよくわからんかもしれへんけどとにかく王と王を中心とした仲間は
力を持つ。力を持った仲間はクランズマンっちゅって俺らの事を示す。」

そこで一回、草薙さんは言葉をきる。

「それで、ここからが珠洲ちゃんについてや。

珠洲ちゃん、自分でもわかってるやろうけど、珠洲ちゃんには不思議な力があるやろ?」

珠洲ちゃんが体を強張らせる。

とっさに俺は#NAME1##ちゃんの肩に手をまわしてぽんぽんと叩く。

「大丈夫。怖いことじゃないよ。」

その瞬間、珠洲はなにかと葛藤するように俯いて唇を噛んだ。

キングが眉根を寄せ、草薙さんも心配そうな顔で珠洲ちゃんを見つめる。

そこではっとしたように珠洲ちゃんは首を振り「なんでもないです」と小さく言った。


草薙さんは躊躇いながらも続きを話す。


「アンナから聞いたんやけど、珠洲ちゃんはテレポートの力がある。
そーいう力のある人の類を俺たちはストレインって呼んどる。
つまり珠洲ちゃんはテレポートのストレインや」


草薙さんは静かにでも確かにそう珠洲ちゃんに告げる。


珠洲ちゃんは重い表情をしたまま固まっている。


「さーて、よくわからない話はここまで!!
珠洲ちゃん、これから帰るところはある?」

珠洲ちゃんはふるふると首を横に振る。


「そっか。じゃあ今日からここで暮らそうよ。」

俯きがちだった珠洲ちゃんが一気に顔を上げてこちらをびっくりした目で見つめる。

まぁ、唐突過ぎたよね。


「あのね、珠洲ちゃん。」

アンナが食べかけのパンケーキを放って珠洲に向き直る。

「珠洲はストレインだから狙われやすい。だから、ここに居て。
ここに居ればミコトも、イズモもタタラもいる。
だから安全。」

“狙われやすい”というアンナの言葉に珠洲ちゃん4がかすかに反応したのを俺は見逃さなかった。


珠洲ちゃん、もしかして、昨日も逃げてたんじゃ…

そうの言いかけて辞めた。

無理に聞き出すものじゃない。


「…ここに暮らすってことで、ええか?」

草薙さんが優しく声を掛ける。

「……はい。」


珠洲ちゃんが返事をした瞬間その場の空気が柔らかくなった。

もし、断られたらどうしようかとみんな心配していたんだなと思う。

キングも何となく安心してるように見えるし。


「そうと決まったら買い物に行こう。」


俺は珠洲ちゃんとアンナを交互に見て言った。

アンナは目を輝かせ、珠洲ちゃんは不思議そうに目をぱちくりさせる。


「部屋は二階にあるねん。やからそこに生活用品詰め込むために買い物に行くんや。」

草薙さんが言い終わる前に珠洲ちゃんはわたわたとカウンターから乗り出してもともと声を最大限に絞り出して訴えた。

「そんなの…っ申し訳ないです……っ

私は…私は別にそんなにしてもらわなくても…」

「珠洲ちゃん。」

俺は困り果てる彼女に声をかける。

「ここはね、バーHOMRAでもあるけど、
吠舞羅っていうグループの溜まり場でもあるんだ。
珠洲ちゃんも、気が向いたら入ってほしい。

だから、そんな子に俺らができることと言ったらこれぐらいなんだ。
だから、お願い。やらせてくれないかい。」


珠洲ちゃんは迷った後、静かに頷いた。

そしてアンナはいつの間にか食べ終わったパンケーキのおかわりを草薙さんに要求し、珠洲はパンケーキの量に一瞬、息をのんだ後、一生懸命残さないように食べていた。

努力家さんだなぁ………。



そんなことを考えながら俺は草薙さんがずっ前に入れてくれた紅茶をすすりながら買い物に行くことを楽しみに待っていた。


























  
   

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