居場所

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草薙 出雲side


相手の要件はいたって単純やった。

この前、自分たちの仲間に喧嘩吹っ掛けた八田ちゃんを呼ばなければこのショッピングモールの中の人間を無差別に撃ち殺していく。
もちろん俺らも撃ち殺される人間に含まれとるっちゅー話しや。

八田ちゃんを呼んでもまたどっかでドンパチするやろうしこの中で戦えるのは俺一人。
でも、さすがに敵の数が多すぎるわな。


あたりにいるなんも関係のない店員や買い物客は怯えきっている。

はよう片づけんとな…。


俺がどうこの状況を切り抜けるか考えあぐねていると、敵の一人が俺らを見張っている敵の仲間に耳打ちをしている。

―――――チャンスや。

「…十束、お前なんかアクション起こし。」

「えっ?どんな?」

小さい声で十束が聞き返す。

「なんでもええ。周囲の目線が全部お前に向くようなことをしてればええ。」

「それってつまり、俺がおとり?」

俺は微苦笑して頷く。十束は嫌な人だとぶつぶつ文句を言いながらどうアクションを起こすか考え始めた。

「アンナ、敵がなに考えてるか見てくれへんか?」

アンナは小さく顎を引き赤いビー玉を取り出してビー玉越しに見張りを見る。

「…持ってる銃はニセモノ。でもボスがホンモノを一つ持ってる。
あとは、外に警察が来てるみたい。」

「ホンマか…。ありがとう、アンナ


十束、準備はええか?」


「うん、大丈夫。」

俺はライターを取り出して一歩前に出る。

「…あのっ」

その時今まで黙っていた珠洲ちゃんが声を出した。

「どうするんですか…?」

俺はどう説明しようかと一瞬迷った。
でも俺がどうこうしてる間に十束が珠洲ちゃんの肩を引き寄せた。

「大丈夫。なんとかなる。」

屈託のない笑顔でそう告げると珠洲ちゃんはどこか安心したように「はい」と言った。


そして、準備は整った。


俺はライターの火を付け敵へと足を運ばせる。


アンナと珠洲を近くに寄せた十束は深呼吸をした後に手から火でできた大きな龍を作り上げ、敵やショッピングモールにいるすべての人間の視線を集める。

俺はその隙を見計らって見張りを殴って気絶させ、ボスへと一直線に走った。

俺がボスに殴りかかるのと十束が龍を消すのはほぼ同時で、ボスは殴られるまで俺が近くにいたことに気づかなかった。

ボスは殴られた瞬間に銃を手放して伸び、
銃は床を滑って遠くへ行った。



「よし、あとは残党をどうにかするだけやな。」

俺がくたびれた十束を見てそう言った時だった。

転がった銃を拾った敵の一人が、十束から少し離れたところにいるアンナに発砲したのは―――。



++++++++++++

櫛名 アンナside


タタラが作り出した龍に私は目を奪われていた。

口をぽかんとあけて無防備に龍に気を取られていたせいで私は今まで握っていたビー玉を床に落としてしまう。

急いで追いかけて拾うと、背中に殺気を感じた。

「――アンナっ危ないっ」


タタラが叫んだ。


振り返ってももう遅くて、銃声が鳴ってしまった。

手で頭を覆ってギュッと目をつぶった時、

不思議な感覚がした。

++++++++++++++


神楽野 珠洲side


――――やめて……っ

私は銃口を向ける男の人を見て声にならない悲鳴を上げた。

そして必死でアンナちゃんに向かって走る。


私に、少し居場所ができたのに。

――――もう、壊れないで。

私はアンナちゃんを抱き寄せて、





――――――――力を使った。






    



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十束 多々良side



アンナに向けられた銃口を見て
俺がアンナに手を伸ばした瞬間、
横にいた珠洲ちゃんが息を飲み、アンナへ駆け出した。

珠洲ちゃんはアンナを庇うようにして抱きつくと同時に姿を消した。

銃弾が床に当たって跳ね返る。

「…珠洲っ。」


アンナの声がして、少し遠くを見れば
草薙さんの近くで膝を床について
震える手でアンナを抱き寄せた珠洲ちゃんが居た。

俺は我に返って銃を持った男を気絶させて草薙さんたちの方へ駆け寄る。


「…大丈夫や。安心しぃ…。」
草薙さんが珠洲ちゃんの頭をあやすように撫でる。


「…私って、気持ち悪いです…よね。」

自嘲したような口調で俯きながら珠洲ちゃんは言った。

俺と草薙さんは言葉を失った。


珠洲ちゃん、
    君は、ずっと…


「気持ち悪くなんか、ない。


珠洲ちゃんは、


とっても、綺麗だよ。」


ずっと、自分を醜いと思っていたんだね。


ストレインとして生まれてきたせいで


でも、君は、


「綺麗だよ。珠洲」

いつの間にか珠洲の目には涙が溜まっていて、俺の言葉を聞いた瞬間、
珠洲は嗚咽交じりに泣き出した。


「…珠洲。」

アンナは珠洲にそっと抱きつく。


草薙さんは優しく珠洲の頭を撫でながら、彼女が落ち着くまでそうしていた。














    

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